野口啓代、強さの秘密。世界を制した「保持力」に迫る

TEAM auに所属する、野口啓代選手の強さを語るうえで欠くことができないのが「保持力」だ。ホールドを捉えて離さない、その力について本人はどう感じているのか。茨城県にある実家敷地内に完成した「au CLIMBING WALL」で練習を行う野口選手に話を聞いた。

小学生のころから細かいホールドが得意。「保持力は私の長所」

「野口選手は保持力が強い」という声をよく耳にします。ご自身ではどう感じていますか?

保持力は私の長所だと思います。クライミングを始めた小学生のころから、指先の第一関節で持つような、小さな細かいホールドが得意でした。

それは意識して得意になったものでしょうか? それともはじめから自然と?

はじめからですね。もともと体重も軽く、体が強い方ではなかったので、指で登ることが最初にできたことと言ってもいいくらいです。持ちやすいガバのホールドで距離を出すよりも、小さいホールドのカチを細かく握って登る方が得意でしたね。

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保持力は調子のバロメーター。「調子が良いと、すべてガバに見える(笑)」

「保持力」の解釈は人による部分もあると思いますが、野口選手の考える「保持力」とは?

確かに保持力の解釈は人それぞれだと思いますが、一般的にはカチなどに対して発揮する第一関節を使った指先の強さを言うことが多いのではないでしょうか。でも私は、カチ以外のホールドに対しても、また第二、第三関節で発揮される強さも保持力だと考えています。さらに言うと、距離を出して取りにいったときに悪い(持ちづらい)ホールドにちゃんとコンタクトしてしっかり止まれるか、悪いホールドだけで体をキープできるかも、続けて登れる持久力も含めて、保持力だと捉えています。

そして、その保持力を活かせるかどうかも大切です。ホールドをただ「持てる」のと、「持ってから動ける」のでは全然違う。保持力が強い人は沢山いると思いますが、ホールドを持ってからいかに距離を出して、その先でしっかりとキープできるように動きをコントロールすることが大事。小さい頃は手や指は使えるものの、それをうまく上半身や体幹と連動させることが苦手でしたが、トレーニングを重ねていくうちに指先だけでなくしっかりと手で掴んだり、体全体でホールドを扱えるようになりました。

調子の良し悪しも、保持できるかどうかで測っています。ホールドを持てていないと、体幹を使えなかったり、集中力が落ちていることが多いんです。

ご自身の中で「保持力」が調子のバロメーターになっていると。

自宅の壁には特に保持が悪いホールドをたくさん付けているんですが、保持にキレがあって調子の良いときって、全部が簡単に持てそうで、すべてガバに見えるんです(笑)。反対に調子が悪いときはどれも持てないように見えるし、持つのに肩が上がっちゃってうまく呼吸ができないような感じになります。

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「色々な形のホールドをたくさん触ってきたことが大きい」

保持力はどのように身に付いたと考えていますか?

子どもの頃から、登るなかで色々な形のホールドをたくさん触ってきたことが大きいと思います。もともとホールドを保持するのがすごい好きなのもあって、カチやスローパー、ピンチ、ハリボテから抱え込むようなホールドまで、苦手意識のあるホールドがないんですよ。先ほど話したように、自宅には悪いホールドが多く、常に保持しづらい壁で登っていたことも影響していると思いますね。保持力を鍛えるために特別なことはしていなくて、フィンガーボードもほとんど使ったことがありません。

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野口選手も日々の積み重ねによって今の保持力を手にしたということでしょうか。人とは違った持ち方をしているということは?

それはないですね。私は基本的に全部の指を使って登っていくスタイル。手指のアイシングやストレッチはあまりしていませんが、それでも一度も手を故障したことがなくて、クライマーに多い手指の変形もしていないんです。それは理にかなった手指の使い方ができているからで、バランスよく全ての指を使えているからじゃないかなと感じています。

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例えばこれだったら第一関節で持った方がいい、このくらいからは第二関節、これだったら手のひらをうまく使った方がいいとか、ホールドに応じて、指に負担なく上手に持てる方法があると思います。私はそれがふだんから割とできている方なのかなって思いますね。

ホールドに応じた持ち手の選択は、感覚的なものですか?

そうですね。やっぱり持ってみて、これが一番しっくりくるなとか、一番おさまりがいいなとか、感覚の部分は大きいですね。それと、私はもともと手が女性にしては大きくて、指も長いし太くもないし、手のひらも大きいんです。だから骨格的にも、ホールドを持つにはちょうどいいのかなって(笑)。

ホールドは5本すべての指で。意識するのは"指の位置"

実際にホールドの持ち手を見せていただけますか?
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野口選手のホールドの持ち手。大体のホールドには5本すべての指を使い、さらに親指とそれ以外の4本の指の位置が重要だという。

他のホールドに対しても言えることですが、人差し指から小指までの4本と親指の位置がすごく重要です。ホールドの向きや、課題内容によりますが、基本的には小指と親指で手全体を意識的に締めています。それによって指に力がうまく入って、きちんと保持できます。だから小指も大事で、小指で持てないようなホールドは嫌なんですよね。この指の位置は、その人にとって一番力が入りやすい、しっくりくるかどうかの場所なので、一概に言うことはできません。

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最近の女子選手には、写真のように3本指で引っ掛けるようにする持ち方も見られるというが、野口選手は「すべての指を使いたい」と話す。

人には得意な持ち方というものがあって、最近の女子選手には親指を使わなかったり、人差し指から薬指の3本指で引っかけて登る子も多いんです。でも親指があるとホールドを押せて体をひねりやすいので、次のムーブも起こしやすい。5本の指を使っていれば、かかる負荷をすべての指に分散させることもできます。だから私は、ホールドを持つときはなるべくすべての指を使いたいですね。

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以前の記事でTEAM auの藤井快選手が「保持力を鍛えるのなら、まずは登ること。それに尽きます」と話していたように、野口選手も特別なことはせず、日々の練習の中でその保持力を身に着けてきた。さらにホールドに応じた持ち方についても、自分にしっくりくるという感覚を、登り込むなかで研ぎ澄ましてきたという。大事なのは、登ること。その時間が長くなればなるほど、自然と強い保持力が身に付くはずだ。

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取材・文:CLIMBERS編集部
写真:窪田亮

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