いまさら聞けないボルダリングの基礎知識 オブザベーション編

知っているようで知らないボルダリングの基礎知識を解説していく本連載。第7回は課題攻略のうえで重要なテクニックの一つ、「オブザベーション」を取り上げる。そのポイントを教えてくれたのは、多くの日本代表選手を指導してきた伊東秀和さん。ボルダリングの上達に繋がる"課題の下見"のコツを学び、レベルアップを目指そう。

オブザベーションの重要性

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課題の下見をする行為「オブザベーション」ですが、なぜ重要なのでしょうか?

ボルダリングでは体力の消耗を抑えるため、スムーズに登ることが求められます。そのために不可欠な技術がオブザベーションです。実際に登った時の体感覚や距離感が事前に課題を見た際のそれと違ったということがよくあるのですが、そうなると現場で処理しなければいけない作業が増えて、体力を余計に消耗しやすくなります。ただ課題を見るのではなくて、しっかりと"観察"し、そこから得た情報を用いて自分が登っているところを想像することで、感覚のズレを最小限に抑えられるというわけです。

オブザベーションが上達することで、得られるメリットは何ですか?

登る技術もより早く向上します。事前の観察が上手にできていないと登りながら迷うことになり、途中の流れが止まってパニック状態に陥って身体をうまく動かせなくなる。その結果落ちてしまうパターンに繋がることが多いと思います。課題のライン上に見落としたホールドがなく、動きに集中できている人ほど技術的に精度の高い登りができます。頭がクリアな状態で毎回いいトライを繰り返している人の方が、技術の上達も早いんです。

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写真:森口鉄郎
オブザベーションの重要性は、何級以上から高まってきますか?

複雑な動きが出てくる5級から、意識的にオブザベーションをする必要が出てくるでしょう。初級者(8〜6級)の場合は登る課題もシンプルなムーブが多いので、スタートからゴールまでのラインの確認程度にとどめ、壁の観察よりも数を登る、いわゆる実体験が大切です。

オブザベーション上達のポイント

手始めに何を、どこから見ていくと良いですか?

まずは簡単なラインの確認からです。登れるグレードが上がっていくにつれて、手で使うホールドを見落とさないことや、足を置く位置が疎かにならないようにホールドを上から見た際の形状もイメージしていきましょう。上級者になると、ホールドを取った時の身体の位置を想像するなど、壁の中での自分自身のサイズ感をイメージすることも大切です。グレード別に、意識するべきポイントを挙げていきます。

[初級者/8〜6級]
シンプルなムーブが多く、押さえる点は基本の2つ

  1. スタートとゴールを明確に認識する
  2. 見落としがないようにホールドの配置を覚える

[中級者/5〜3級]
複雑なムーブが増え、本格的なオブザベーションが必要に

  1. 全体の配置に加え、ホールド同士の距離感も見定める
  2. 配置を覚えた後は壁に近づいたりして、様々な角度から観察。傾斜に対してのホールドの形、大きさ、向きを確認する

[上級者/2級〜初段以上]
プロも実践。リアルな視点、挙動をイメージしながら観察する

  1. ホールドの"効く"ポイントまで見る
  2. 登っている時の視覚をリアルにイメージする
  3. ホールドを取った後どこに目線を送るか、視線のムーブも意識する
  4. どのように身体を配置するか、重心の位置を意識する
  5. 保持感覚や必要な保持力・脚力、身体にかかる負荷まで想像する
流行りのホールドについて気をつけることがあれば教えてください。

ここ数年はボリュームやハリボテなど大きなホールドが流行していて、さらにそこに小さなホールドが付いていることも多いです。そうすると掴むべきホールドが死角にあったり、触った瞬間の保持感が想像と異なって力の加減がズレるなど、不確定要素が増えてきます。特にコンペの場ではこういった状況への対応が迫られるので、なおさらオブザベーションの技術が求められます。

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大きなホールドの登場により、ホールドの上にさらにホールドが付くケースが増えてきている。
初めて見るホールドや、苦手な質感に出会った時にはどのように対処すれば良いですか?

最近多い質感として、一つのホールドに摩擦のある部分とツルツルとした滑る部分がミックスしている「デュアルテクスチャー」と呼ばれるものがあり、苦手とする人も多いと思います。デュアルテクスチャーに限らず保持感覚を想像しづらい場合は、どこを持つかというより身体の位置をどこに置けば良いのかを意識するようにします。足を置く位置や下半身・重心の位置、身体の位置を変えて効いてくる場所を観察、そしてイメージに繋げてみることが重要となります。

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デュアルテクスチャーのホールド(写真:鈴木奈保子)

ここまでで説明した各ポイントは、ただ登っているだけだと身につきにくい技術なので、意識しながら登ることが大切。トライ&エラーで繰り返していく地道な努力も必要です。

実際の課題を用いてオブザベーション方法を解説

ここからは、壁に対するホールド密度が低い「ラインセット」、反対に密度が高い「まぶしセット」の2つのルートセットの種類を例にして、オブザベーション方法を解説していきます。

【ラインセット】
黒ホールド、オレンジテープ課題

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写真:ボルダリング検定(5級課題)
手順はシンプルのように思えますが、ポイントはどこでしょうか?

まずはムーブの大枠を確認したうえで、ポイントを挙げていきたいと思います。

  1. 初手①をマッチ(両手持ち)した後にカンテ(壁の角)のホールド④を触り、ハリボテ⑤に右手を送る
  2. 左手で⑦を取ってガストン(外開き)の体勢
  3. ⑤を右手でプッシュして体勢を左に送り込む
  4. ⑦をマッチ、左手を送ってゴールを取る

・ホールドの向きの悪さ、足場の悪さ。ポジショニングとバランスが試される
一つ一つのホールドの向きや持ち感があまり良くないことが窺えるので、この課題は足と手の連動が必要になるはずです。足場に注目すると、スタートの足からハリボテが3つ並んでいますね。これは面でしっかりと踏むことが大切で、そのためには手と足で"効かせられる"ポイントを探す必要があります。また、特に注意したいのが④から⑤の流れで、左手でガストンをしに行く時の両足の踏み位置を、正しい角度で踏むことによって体勢が定まり、途端に足が効いて手が取りやすくなります。

【まぶしセット】
オレンジVテープ課題

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写真:DOGWOOD 高津店(5級課題)
続いては、まぶしセットの課題(足自由)です。こちらのポイントはどこでしょうか?

足を置く位置が自由な課題は、ホールドの配置や形状の認識レベルを上げる必要があります。このまぶし課題のラインにも、少し厄介なホールドが隠されています。ムーブの流れは次の通りになると思います。

  1. スタートは壁に対して平行に身体を向け、初手①を左手で取った後に②を右手で取る
  2. ③を左手で取ったら、そのまま左手を④に送る
  3. ゴール前の⑤の見落としにも注意

・ゴールまでの手順、ホールドの形状と距離感の把握
右、左、右、左の手順では進めない課題があることを5級以上の場合は意識してほしいですね。この課題では①を左手で取って進みますが、④を左手で取らないとゴール取りの体勢が厳しくなってしまいます。そして、ホールドの形状と距離感の把握も大事になります。例えば④を左手で取るのに、立ち上がりながら②を持っている右手を、アンダーに持ち替えられる可能性がある形状をしていることに着目してください。そしてゴールのホールドは、⑤を経由しないとけっこう遠い位置にありますよね。その場合、④~⑤~ゴールまでの流れで、壁の凹角でステミング(両手もしくは両足を開き左右の方向に力を入れ突っ張って身体を安定させるテクニック)をする必要があることも選択肢に入れておきましょう。

様々なホールドが点在しているまぶしセットですが、オブザベーションの際にテープだけを見て、ラインの確認だけで満足して終わりがちです。テープに注目するのではなく、ホールドの配置や特性をきちんと確認する作業を疎かにしないよう気をつけましょう。

オブザベーション力を高めよう!自宅トレーニング

最後に、自宅でも行えるオブザベーション力の向上トレーニングを教えましょう。

[瞬間記憶力トレーニング]

  1. 1分間ほど時間をかけて一つの課題を眺め、覚える
  2. 少し時間を置いて(初めはすぐでも良い)、紙に描き出す

目には映ってないものを頭の中でイメージできるようになることが狙いです。慣れると写真を撮ったかのように、頭の中に課題が浮かぶようになります。

[ホールド認識レベル向上トレーニング]

  1. 5つ前後のホールドを無造作に並べ、目隠しをした状態で触る
  2. 目隠しを外し、触ったホールドの形状や配置を絵で書き出していく

ホールドの形状把握や距離感を養うためのトレーニングです。家にホールドがある場合に限りますが、みんなでワイワイやると楽しいですよ!

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  • 伊東秀和(いとう・ひでかず)
    1976年、千葉県生まれ。2002年、2003年のジャパンツアー年間王者。日本代表として2011年まで世界選手権5大会に連続出場(リード種目)。現在は『伊東秀和クライミングスクール』を主宰し、多くの日本代表選手からユース世代、一般の方まで幅広く指導している。スポーツクライミング大会中継などでの解説者としても活躍。
    公式インスタグラム https://www.instagram.com/hide9a2019/

取材・文:横畠花歩
写真:窪田亮

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