ボルダリングに握力は必要? トップ選手のトレーニング方法も紹介

「ボルダリングには握力が必要だ」そう考えている方は多いのではないでしょうか。この記事では、"ボルダリングに握力は本当に必要なのか?" "ボルダリングで求められる能力にはどのようなものがあるのか?"という気になるテーマについて、様々な視点からクライミングを日々追及する人気ブログ『Mickipedia』の管理人、植田幹也さんが解説していきます。

ボルダリングに握力は必要?不必要?

まず結論から言ってしまうと、ボルダリングを含めスポーツクライミングでは、"握力が強いと有利になる場合もあるが、それほど重要ではない"となります。クライミングのホールドには様々な種類があり、親指を回してしっかりと握力を発揮できる形状ばかりではないのです。「カチ」と呼ばれる小さく指先だけでしか持てないものや、「スローパー」という手のひら全体で抑え込むもの、肩や胸など体のあらゆる場所を使って抑える「ハリボテ」など、多岐に渡ります。

とは言え、握力がボルダリングにまったく関係ないと言うのは嘘になるでしょう。現にTEAM auの野口啓代選手は以前テレビ番組で握力を測定したところ、一般女性の平均を大きく上回る50kg以上の数値を叩き出していました。この高い握力は野口選手にとって有利に働いているはずです。一方リードW杯で年間優勝したこともある世界的クライマーの安間佐千さんは握力が40kg以下と男性の平均値を下回っているという話も聞いたことがあります。つまりクライマー個々人によって高い握力を発揮して登るタイプもいれば、他の力で補って登るタイプもいるのです。

今年のボルダリングジャパンカップ決勝課題を登る野口啓代
今年のボルダリングジャパンカップ決勝課題を登る野口啓代

最も必要なのは指先でホールドにぶら下がる「保持力」

過去にクライミング専門誌で「クライマーのパフォーマンスにはどのような力が最も相関が強いのか」という実験がされていました。結果は、握力も登りのパフォーマンスと関係はあったものの、それ以上に強い相関を示したのは指先でホールドにぶら下がる「保持力」でした。どの程度の重りを背負って片手の指でぶら下がれるかで保持力を測っていたのですが、その力がボルダリングのパフォーマンスと密接に関係していたのです。

クライミングでは様々なホールドの持ち方(ホールディング)や身体の動かし方が求められます。しかしどんな状況であっても指の力、つまり保持力はベースとなります。例えば、握力が発揮しやすいピンチホールド(下写真参照)であっても手が届いた瞬間は親指を回せずに4本指でぶら下がる形になることも多いのですが、この場合いくら握力が強くてもその力を使うことはできません。他にも腕や背中で引く力が非常に強いクライマーがいたとしても、保持力が低くてホールドに引っ掛けたり、ぶら下がることができなければ、その力はまったく発揮できないのです。

ピンチホールド
ピンチホールド<写真:鈴木奈保子>

保持力をどうやって鍛えるか

では、保持力はどうやって鍛えれば良いのでしょうか。まず断っておくと、ボルダリングを始めて数年の内は特別なトレーニングは要りません。とにかくボルダリング自体をすることが一番の上達の近道ですし、登ることに伴って保持力もだんだんと上がっていきます。そこで、日頃登る上で意識すると良い項目を挙げていきたいと思います。

1.正しいフォームとホールディング
どんなにたくさん登っても、デタラメな登り方やホールドの持ち方では正しい力が使えないので保持力も鍛えられません。上手い人の登りをよく観察して取り入れたり、時にはアドバイスを貰うことも良いと思います。また近年はボルダリングに関するたくさんの本、WEB記事、動画などが出ているので基本的なフォームやホールディングを勉強できるはずです。

2.課題の好き嫌いをしない
課題の選り好みを極端にせずに、満遍なく色々なタイプを触ることをおすすめします。例えばピンチホールドが使用されている課題ばかり登っていると指先の力はそれほど鍛えられないため、ぶら下がる保持力は一向に付かないという事態にもなりかねません。はじめの内は自分が登ることができる限界のグレード付近でそのジムの課題をすべて触るくらいの意識でも良いと思います。もちろん中上級者になってきたら、自分の苦手なホールディングを集中的に鍛えるような課題を選ぶのも効果的です。上級者は鍛えたいポイントを絞って自ら課題を作って練習したりもします。

3.適切な頻度で登る
目安としては週10時間くらい登れるとグングン上手くなっていくと思います。週に3日×3~4時間くらい確保できるととても効果的ですね。一方で週6日登るなどのオーバーワークは怪我の原因にもなります。特に始めたばかりのころは指が登りの負荷に耐えられず怪我をしたり変形したりすることがあるので要注意です。

トップクライマーであってもトレーニングは普段の登りがベースになっていることに変わりはありませんが、特別な保持力トレーニングをしているクライマーもいます。例えばフィンガーボードという、カチやポケットやスローパーなど様々なホールドが組み合わさったトレーニングボードに、ぶら下がったり懸垂をしたりします。超上級者向けだと1本指のポケットや、厚さ数mmのカチなど非常にハードなものもあります。登りの基礎がきちっと身についてきて、中上級者に足を踏み入れた方はジムにあるフィンガーボードを使ってみたり、自宅に設置するのも良いでしょう。

TEAM au 楢﨑明智選手に聞いた!保持力向上トレーニング

TEAM au楢﨑明智
<写真:森口鉄郎>

それでは、実際にトップクライマーは保持力アップのためにどんなトレーニングをしているのでしょうか? TEAM auの楢﨑明智選手に握力と保持力の関係、自ら考え実践しているという自宅でできるトレーニング法を聞いてみました。

僕も智くんも、握力はそこまで強くない
握力はもちろん強いに越したことはありませんが、『握力が強い=クライミングが強い、保持力が強い』とは言い切れないと思います。僕も(兄の)智くんも握力は50kgくらいで、そこまで強いとは言い切れません。一般男子の平均よりは強いですが、スポーツをやっていればこれくらいの人はたくさんいると思います。実際、僕らより野口選手の方が握力は強いんです

クライミングをするうえで、やっぱり大事なのは保持力だと思います。『保持力が強い』というのは、昔はカチを持てる人のことを言うイメージでしたが、色々なホールドが使われることが増えた今では、どんな種類のホールドでもしっかり持てることだと思います。(壁やホールドから)足が離れても耐えられるし、テクニックに頼らないで登れる人が、保持力が強いんだと思います。

木材に重りをつけた自作のトレーニング器具
僕は保持力向上のために自宅でフィンガーボードにぶら下がったりすることもありますが、家の壁に取り付けるのは難しい方もいると思うので、そういう時は木箱にホールドを取りつけて、さらに横から穴をあけて紐を通し、重りをぶら下げる。それをダンベルのように上げ下げするのがおすすめです。僕は苦手な細いピンチを取り付けていますが、それぞれが苦手だと思うホールドで構いません。実際のホールドを使うのが一番いいですが、簡単にホールドが手に入らないという方は、ただの木材でも大丈夫です。僕も元々、細い木の棒をつけてやっていました。今つけている重りは15~20kgですけど、そこまでやる必要はなくて最初は5kg前後でいいと思います。30秒間、上げ下げをして、それを5セットくらいが目安ですね。

楢﨑明智選手がつくった保持力トレーニングの器具
<写真提供:楢﨑明智>

ただ、クライミングの保持力はクライミングで上げることが一番早いと思っているので、このトレーニングはジムでクライミングをしないレスト日に、ホールドを持つ感覚を養うために行う意識でやるといいと思います。

文: 植田幹也
取材・構成: CLIMBERS編集部
写真:窪田亮

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