いまさら聞けないボルダリングの基礎知識 保持力編

知っているようで知らないボルダリングの基礎知識を連載形式で解説していく本連載。第4回は頻出ワード「保持力」を取り上げる。大会中継やジムでもよく耳にするフレーズだが、具体的に何を指すのか? 「初心者が『ボルダリング検定』で5級合格を目指す」シリーズでお馴染み、モデルの葉月蓮さんが、かつて日本人初の2年連続W杯年間優勝(リード)を成し遂げ、現在は大会中継で解説者も務めるプロフリークライマー、安間佐千さんに話を聞いてきた。

保持力ってなに?

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Q(葉月):「保持力」という言葉は聞いたことあるんですけど、よく意味がわかっていないんですよね。そもそも保持力って一体なんですか?

A(安間):保持力は読んで字のごとく保持する力のことですね。イメージでいうと、手で壁に張り付くための力です。ただ、その保持力には大きく分けて2種類あります。一つは"腱の強さ"。腱の強さというのは、指をホールドに引っ掛けたときに指が開かないようにする力というイメージです。例えばポケットホールドは指で握りしめるというより、穴の中に指を入れて引っ掛けるような形になりますよね。そのときに指が開くと指が抜けて落ちてしまいます。そこで指が開かずに耐えるというのが保持力の一つになります。

Q(葉月):もう一つの保持力は?

A(安間):もう一つは例えばカチを持つときの力ですね。先ほどはぶら下がるようなイメージでしたが、こっちは指を立てて親指も巻き込んでグッと握り込むような形で保持します。特に第一関節から先とか、面積の小さなホールドを持たなければいけないときにグッと握り込むのも保持力になります。

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<ぶら下がる形>
<親指を巻き込む形>

Q(葉月):ぶら下がる力と指先で握り込む力が保持力なんですね。手のひら全体でグッと掴むようなのも保持力になりませんか?

A(安間):ピンチホールドなどがそういうイメージですね。ピンチはどちらかと言えば握力があると、それに比例してピンチ力も強くなります。あとは肩など大きな筋力のサポートも受けやすい保持になるので、純粋に保持力だけというわけではないですが、保持力が影響しているのは間違いないです。

保持力は鍛えられる?

Q(葉月):保持力は練習で鍛えることができるものなんですか?

A(安間):鍛えることはできますが、非常に育つのがゆっくりなものです。ただ、もともと先天的に備わっているポテンシャルも大きな要素です。どんな人でも保持力を伸ばすことはできますが、誰しもが世界のトップレベルの保持力になれるわけではありません。

Q(葉月):自分の保持力が強いかどうかを確かめる方法ってあるんですか?

A(安間):カチにぶら下がってみるのが一番わかりやすいと思います。親指を巻き込む反応が出る人と、出ない人がいます。その反応で先ほど挙げた2種類の保持力のどちらのタイプかがわかります。僕は腱が強いタイプなので、苦しくなってきても親指を巻き込むことはありません。人差し指、中指、薬指の3本でずっとぶら下がるような形になります。反対に握り込むタイプの人は、親指も巻き込んでグッと力を入れて耐えるような形になります。

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Q(葉月):安間さんはリードの選手ですけど、腱が強いタイプの人はリードが向いているんですか?

A(安間):腱というのは指の中にワイヤーが入っているようなものなんですね。先ほどポケットホールドに指を引っ掛けるのが得意という話をしましたが、僕はそのワイヤーが強いということなんです。ワイヤーが強いと、ホールドに指を引っ掛けても指が簡単には開かないので、筋力をそれほど使わなくても登っていくことができます。逆にそこで指が開かないよう積極的にグッと力を入れて保持しなければいけないと、腕の筋力を使うのでパンプしてきます。だから腱が強いタイプの人はそれほど持久力のトレーニングをしなくても、けっこう継続的に登ることができるんです。さらに僕の場合はもともと体重も軽いタイプなので、指のワイヤーへの負担も少なく、ずっと力を使わずに登っていけるイメージです。だから僕はリードに向いていたのかもしれませんね。

"保持力おばけ"野口啓代の凄さ

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<WCH2019 写真:JMSCA/アフロ>

Q(葉月):TEAM auの野口啓代選手が"保持力おばけ"だと聞いたことがあるんですけど、野口選手の保持力ってそんなに凄いんですか?

A(安間):もう、ものすごく強いですね。ぶら下がる保持力と握り込む保持力の話をしてきましたが、野口選手はその両方が世界トップレベルに強いです。特に握り込む力は強烈です。もう半端なく握り込むんです。握り込むときは爪の横の皮が裂けてしまうほど握り込んでいるときもあるほどです。

Q(葉月):そんなに強く握れるものなんですか! でもそんなに強く握っちゃうと指がおかしくなっちゃいそうですね。

A(安間):野口選手はその握り込む力にも耐え得るだけの関節の強さを持っているのだと思います。僕でもそんなに強く握ってしまうと指が弾け飛んでしまいそうで怖いです。並の選手であれば握り込む力の限界が来る前にセーブしてしまうものですけど、野口選手はフルパワーで握っても耐えられるということが強靭な保持力を有している理由でもありますね。野口選手は中学生くらいの頃から今の保持の仕方と変わっていないと思います。

Q(葉月):じゃあ野口選手はタイプでいうと握り込むタイプですか?

A(安間):そうですね。ただ、彼女は握り込むタイプが強くて、なおかつ腱の強さも持っていたということだと思います。例えばリードを得意とする日本代表のある選手は、反対にもっとオープンハンドで握り込まずに引っ掛けて登っていく腱が強いタイプです。でもその選手でも握り込むときはグッと握り込みます。どちらかが優位に出てくるけれど、今の世界のトップ選手たちは両方が高いレベルにあります。

おすすめの保持力トレーニング

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Q(葉月):保持力を強くするためのトレーニングってあるんですか?

A(安間):指を閉じるときに指の第一関節の他に、第二関節にも力を入れるポイントがあります。その第一関節と第二関節に力を入れる感覚や連動性を高めるように開発すると、保持力が高まっていきます。僕はPNF(固有受容性神経筋促通法)というトレーニングのトレーナーについてもらって、その指先の感覚を開発しました。そのトレーニングの一つを紹介したいと思います。

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①反対の手の親指を指先に添えながら、指を開いた状態にセットします。

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②親指を添えたまま、開いた指を握り込むように折りたたみます。

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③両方の指に力を入れ、親指は指を開くように力を加えます。最初は握り込んだ指が開かないように耐えていきますが、徐々に親指の力に負けて指がゆっくりと開いていくようにします。

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④開いていくときに第一関節、第二関節の力が一気に抜けないように意識していきます。

最後まで関節が抜けないように開き切ったら1セット終了。①に戻ってすべての指で①〜④を2セットずつやりましょう。

このトレーニングで、指先の感覚と腱の強さを養うことができます。僕も壁を登る前のウォーミングアップの一環としてよくやっています。自宅でも仕事の休憩時間でもいつでも気軽にできるトレーニングなのでおすすめです。

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  • 安間佐千(あんま・さち)
    1989年9月23日、栃木県生まれ。12歳でクライミングを始め、世界ユース選手権やジャパンカップなど数々の大会を制す。2012年にはリードW杯で日本人男子12年ぶりの年間優勝に輝き、翌年は2連覇を達成した。現在は外岩を中心に活動し、世界各地の高難度ルートを登攀している。

※掲載内容は2019年12月時点の情報です。

取材・文:篠 幸彦
写真:鈴木 奈保子
撮影協力:Climb Park Base Camp入間店

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