いまさら聞けないボルダリングの基礎知識 ホールド編

知っているようで知らないボルダリングの基礎知識を連載形式で解説する当コーナー。第3回は「ホールド」編だ。クライミングをする上であって当たり前のホールドだが、何からできていて、どんな種類や用途があるのか? 今回は「初心者が『ボルダリング検定』で5級合格を目指す」シリーズで健闘したモデルの豊田恭兵さんが、ジムオーナー兼ルートセッターでホールドを熟知する岩橋由洋さんに話を聞いてきた。

ホールドの素材

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Q(豊田):普段クライミングジムで当たり前のように触っているホールドについて、それほど考えたことはありませんでした。そもそもホールドって、どんな素材からできているんですか?

A(岩橋):ホールドは主にポリウレタンまたはポリエステルという樹脂からできていて、最近ではポリウレタン製が主流になっています。

Q(豊田):ポリウレタンとポリエステルではどう違うんですか?

A(岩橋):主流のポリウレタンは柔らかく軽い素材です。セッターとしては軽いので持ち運びやすく付け外しが楽で、落としても割れないという特徴もあります。それに比べて、ポリエステルは硬く重いのでセットする時に付けづらい面があり、落としたら割れてしまうこともあります。

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Q(豊田):登る時の違いはありますか?

A(岩橋):ホールドにとって重要なフリクションに違いがあります。ポリウレタンは柔らかく軽い分、フリクションが落ちやすい。ポリエステルのほうがフリクションがあり、岩場に近い感覚のホールドと言えますね。

ホールドは使い込むとチョークが溜まって白くなったり、シューズのラバーで黒くなったりすることでフリクションが落ちてしまいます。ジムのホールド替えの際など、定期的に洗うとポリエステルはフリクションが戻りますが、ポリウレタンは表面が削れてフリクションが落ちてしまいます。使い勝手ではポリウレタンのほうが優れていますが、フリクションの耐久性という面ではポリエステルのほうが優れています。

例えばコンペでは主流となっているポリウレタンのホールドがよく使われますが、予選では1番目に登る人もいれば100番目に登る人もいます。前半の選手は状態の良いフレッシュなホールドで登ることができますが、後半の選手はフリクションが落ちたホールドで登ることになります。ボルダリングジャパンカップなどの大会ではランキング上位の選手から競技が始まりますが、これには本当に力のある選手に良いホールドの状態で登ってもらい、次のラウンドに残ってもらいたいという意味もあります。

ホールドの種類

Q(豊田):そんな意味もあったんですね。ホールドにもいろんな形がありますが、どんな種類があるんですか?

A(岩橋):まずは代表的な5つのホールドを説明します。

【ガバ】

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ガバは最も基本的なホールドです。持つ時の手のかかりがよく、"ガバッ"と持てるのが名前の由来です。持ちやすいので初級者向けの優しい課題でよく使われますが、中・上級者向けの強傾斜壁などでも使われます。幅広い課題で使えるため、ジムにとっては一番必要なホールドになります。

【カチ】

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カチは指の第一関節など、指の先端で掴む形になる薄いホールドです。その指先で抑える形を"カチ持ち"と呼びます。ガバは持ち替えるのが容易でしたが、カチは持ち替えるのが難しいので、動きを制限させたい時に使われるホールドです。

【ポケット】

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ポケットのように穴が空いているのが特徴で、指をその穴に入れて掴むホールドです。ポケットは持ち替えることができないので、動きの手順を制限する時に使われることが多いです。穴が小さいので体を固めて取りにいく時はいいですが、ダイナミックに取りにいく場合はとてもリスキーなムーブになるのも特徴です。コンペでポケットを使ったリスキーな課題の完登率は低いことが多いですね。指がしっかりと入るものから、指先が引っかかるくらいのものまであり、中級以上の課題で傾斜を選ばず幅広く使われるホールドです。

【ピンチ】

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ピンチは親指とそれ以外の指で挟むようにして掴むホールドです。その持ち方も"ピンチ"と呼ばれます。大きさは様々あって、指先で持つものから手のひら全体で掴むものまであります。ピンチは力強いホールドになるので、強傾斜などで力を誤魔化せない真っ向勝負といった場面で使われます。本当に強い人だけが登れる、次のラウンドに進む人数にふるいをかけるような課題でよく使われるホールドです。

【スローパー】

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ここまで紹介してきたホールドは手で掴むものでしたが、スローパーは手のひら全体で掴み、全身で抑え込むような、フィジカル能力が問われるホールドになります。スラブや垂壁など、テクニカルで繊細さを要求する動きの時に使われます。ただ、中には指のかかりの良いスローパーもあって、それは強傾斜の壁でも使われることがあります。

Q(豊田):ちゃんとそれぞれに名前があって、用途も違うなんて知りませんでした。

A(岩橋):ホールドは用途の違いだけではなくて、相性の違いもあります。例えばピンチやスローパーといったフィジカルで抑えるようなホールドは男性が得意で、女性は苦手にしています。でも、カチやポケットのように小さいホールドは女性のほうが得意ですね。手の小さな女性は3本の指をかけられるけど、手の大きな男性は2本しかかけられない場合があります。ホールドはこの指1本の差が大きく、男性は苦手とすることが多いです。

また、ホールドの中にはビスホールドと言って、ボルトではなく、ビスで止める小さくて薄いホールドもあります。"ハリボテ"に付けて動きに変化をつけるために使われたり、スラブや垂壁の足場に使われたり、難易度に変化を加えたい時に使われます。

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小さなビス(左)と、ボルト(右)。ホールドはこの2つを用いて壁に取り付けられる。
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左がビス穴、右がボルト穴だ。

流行の"ハリボテ"

Q(豊田):今話に出た"ハリボテ"って何ですか?

A(岩橋):形状としては一般的に三角形や四角形で、曲面ではなく角ばっているホールドがハリボテと言われます。少し前はコンパネで作ったものをハリボテと呼んでいましたが、最近では樹脂で作ったものもあります。小ぶりなものから1.5メートルくらいの大きなものまでありますよ。近年はコンペでもよく使われていて、需要が増えたことで種類も豊富になってきました。ハリボテは選手にとっては動きが想像しづらく、セッターからするとコントロールがしやすいホールドです。ハンドホールドと違うのは持つところがはっきりしていない点です。持つというより、体で抑えたり効かせたりという感じになるので、攻略がしづらくなります。

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一般的に三角形や四角形で、曲面ではなく角ばっているホールドをハリボテと言う。ハリボテにホールドを取り付けることも。

Q(豊田):他にも流行のホールドはありますか?

A(岩橋):最近ではフリクションがある面と、フリクションがないツルツルとした面の2つの加工が施された"デュアルテクスチャー"というホールドも増えてきました。フリクションの効く面が決まっていることで、動きを制限させることができます。セッターが「こういう動きをさせたい」という意図がある時に使われるホールドですね。

Q(豊田):今後はどんなホールドが作られていくと思いますか?

A(岩橋):各メーカーは大きなコンペで使われる、中継で映えるような派手なホールドをメインに様々なものを開発していくと思います。ホールドを作るメーカーも増えてきており、その傾向はこれからも続くはずです。

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  • 岩橋由洋(いわはし・よしひろ)
    クライミングジム「DOGWOOD」高津店と調布店のオーナーを務める傍ら、日本山岳・スポーツクライミング協会公認のルートセット資格を持ち、様々な大会のセットで全国を飛び回っている。その収集が趣味だという、ホールド事情に精通したスペシャリスト。

※掲載内容は2019年10月時点の情報です。

取材・文:篠 幸彦
写真:鈴木 奈保子
撮影協力:DOGWOOD 高津店

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