いまさら聞けないボルダリングの基礎知識 ルール編

知っているようで知らないボルダリングの基礎知識を連載形式で解説していく本連載。第2回はボルダリングを含む「スポーツクライミング全体のルール」を取り上げる。「初心者が『ボルダリング検定』で5級合格を目指す」シリーズでお馴染みのモデル、葉月蓮さんが特に観戦機会の多い公式戦のルールを中心に、国内で唯一審判の国際資格を持ち、運営の中心としても大会に携わる羽鎌田直人さんに話を聞いてきた。

スポーツクライミングの種目

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Q(葉月):私はスポーツクライミングではボルダリングしかやったことがなくて、他の種目はあまり馴染みがありません。どんな種目があるんですか?

A(羽鎌田):スポーツクライミングにはスピード、ボルダリング、リードの基本的な3種目と、それらを1人の選手が行うコンバインドの計4種目があります。

"どれだけ速く登れたか"を競うスピード

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世界共通コースを登るスピード。世界記録は男子が5.480秒、女子が7.101秒だ。<写真:窪田亮>

スピードはその言葉の通り、どれだけ速く登ることができるかを競う種目です。長さ15メートル、幅6メートルの壁には国際規格で定められたホールドを用いて世界共通のコースが設置されます。大会では2人の選手が並んで競技を行います。

スピードは予選と決勝の2ラウンドで行われますが、予選は全体のタイム順によるタイムレース方式、決勝は対人戦によるトーナメント方式で行われるのが特徴的です。フライングをしてしまうと不正スタートとなりその時点で最下位扱いに、最上部のゴールパッドを叩けなければ途中で落下したのと同じ扱いで記録なしとなってしまいます。

"いくつ登りきれたか"を競うボルダリング

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日本で最も人気の高いボルダリング。<写真:JMSCA/アフロ>

Q(葉月):次のボルダリングは私もよく知っています。完登することが大事なんですよね。

A(羽鎌田):そうですね。ボルダリングはラウンドごとに複数の「課題」と呼ばれるコースがあり、その課題を登りきる「完登」の数を競う種目です。壁の高さは4~5メートルで、課題ごとで指定されたホールドに両手・両足を置いてからスタートします。ゴールはTOPのマークがあるホールドを両手で持てば完登と認められます。

Q(葉月):完登数が同じ場合はどうなりますか?

A(羽鎌田):完登数が同じ場合、次に大事なのが「ゾーン」の数になります。各課題の中間地点にはゾーンと呼ばれるホールドが設けられていて、掴むことで獲得が認められます。完登数で並んだ場合、このゾーン獲得数が多い方が上位になります。

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各課題にマークで示されたゾーンホールド(写真内左上)があり、その獲得数は完登数の次に重要となる。<写真:JMSCA/アフロ>

ゾーン獲得数でも並んだ場合は、次に大事なのが「アテンプト」と呼ばれるトライの数です。完登に要したアテンプト数が少ない方が上位となり、それでも並んだ場合はゾーン獲得に要したアテンプト数が少ない方が上位になります。このようにボルダリングの順位は、完登数→ゾーン獲得数→完登に要したアテンプト数→ゾーン獲得に要したアテンプト数、の4段階で決まります。

各課題は制限時間内であれば何度でもトライできますが、少ないアテンプト数で登ることは勝負の上で大事なポイントになります。一番理想的である最初のトライで完登することを「一撃」や「フラッシュ」と言います。

"どこまで高く登れたか"を競うリード

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ヨーロッパを中心に人気の高いリード。技術力、持久力、戦略性など様々な要素が求められ、クライミングの花形と言われる。<写真:JMSCA/アフロ>

Q(葉月): 3つ目のリードはどんな種目なんですか?

A(羽鎌田):リードは12m以上の壁をどこまで登れたかを競う種目です。およそ30~40手の課題がセットされ、ロープを支点にかけて安全を確保しながら登っていくのが特徴です。ボルダリングは時間内であれば何度でもトライできましたが、リードは一度落ちたらそこで競技終了となります。

コース上には安全を確保するためのクイックドローが点在していて、下から順にロープをクリップしていきます。ボルダリングとは異なり、TOPホールドを掴むのではなく最上部のクイックドローにクリップすることで完登と認められます。

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ロープを掛けるクイックドロー<写真:窪田亮>

Q(葉月):「どこまで登れたか」ということですが、どのように成績が決まるんですか?

A(羽鎌田):あらかじめ、手で掴むことが想定されるホールドのみ下から順に番号が振られていて、到達したホールドの番号でスコアが決定します。例えば30番目のホールドを掴んだ状態で落ちるとスコアは30となります。さらに31番目のホールドを掴みに行こうとして落ちた場合、+の加点が付きます。これはただホールドを持って落ちた人よりも、次に行こうと努力した人の方が上位になる仕組みになっています。もし同高度で選手が並んだ場合、「カウントバック」と言って前のラウンドで上位の選手が上の順位となり、それでも並んだ場合は表彰台に関わる順位の選手のみ、スタートから落下するまでの所要時間(=クライミングタイム)が短い選手が上位に、完登の際は最終支点にロープをかけるまでの時間が短い選手が上位となります。

1人で3種目を行うコンバインド

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並び立つ3種目の壁<写真:窪田亮>

Q(葉月):スピード、ボルダリング、リードの3つが主な種目ということですが、最後のコンバインドはどんな種目ですか?

A(羽鎌田):コンバインド(複合)はスピード、ボルダリング、リードの順番に3種目を1人の選手がすべて行う種目で、来年実施されるメインイベントでも採用されています。各種目の順位を掛け算した数字をその選手のポイントとし、ポイントの少ない選手が上位となります。この"各順位を掛け算する"というのは他の種目にはないところだと思います。

Q(葉月):足し算じゃダメなんですか?

A(羽鎌田):足し算だと同ポイントになる可能性が高くなってしまうことと、いずれかの種目で良い順位を獲得した選手が優位になるように、という意図があります。1位を1つでも取れるかどうかというのは、コンバインドでかなり重要になってきます。

コンバインド:予選方式

Q(葉月):来年の大会でも採用される種目ということで注目度も高そうですね。予選や決勝はどのように進んでいくんですか?

A(羽鎌田):まずは20人が出場する予選から説明していきましょう。第1種目のスピードは各選手が2回試技をし、速かった記録を予選タイムとしてタイム順で順位が決定します。

完登数を競う第2種目のボルダリングは4課題で争われ、5分間の競技と5分間の休憩を繰り返していきます。このリズムで先頭の選手から順に登場していくことを通称"ベルトコンベアー方式"と呼びます。仮に2分で完登できてしまえば、残りの3分間は休憩の時間に回すことができます。より少ないトライ数や時間で登ることができれば、その分だけ体の負担は少なく、休む時間も増えるのでスコア以外の部分でも優位になれます。

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Q(葉月):休んでいる間に他の選手の登りを見ることはできるんですか?

A(羽鎌田):できません。スポーツクライミングでは競技の公平性を保つために、「アイソレーションエリア」と呼ばれる隔離された場所に待機して他の選手の登りや情報を得ることができないようになっています。

そして第3種目のリードは、6分間の制限時間で1つの課題にトライします。選手には競技スタート前に「オブザベーション」と言って6分間の課題を下見する時間が与えられます。スポーツクライミングでは、身振り手振りを交えながら体の動きや手順などを想定する課題の"事前の観察"が大事になってきます。コンバインドのリードでは同高度で並んだ場合、カウントバックはせずにクライミングタイムで順位が決まります。

リードが終わり、3種目の順位の掛け算で決勝進出の上位8人を決定します。

コンバインド:決勝方式

Q(葉月):決勝と予選でルールに変更はありますか?

A(羽鎌田):スピードとボルダリングで変更があります。まず第1種目のスピードは前述の通り対人戦となり、トーナメント方式で進行します。初戦は予選タイム1位と8位、2位と7位、3位と6位、4位と5位がマッチングされ、全レース共通でタイム上位の選手が左レーンを登ります。これには諸説ありますが、スタートポジションが左向きになることが多いこの種目では、視界に相手選手が入らない左レーンの方が有利だと考えられているからです。

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スピードは左向きでスタートする選手がほとんど。全レース共通で、タイム上位選手が左レーンで登る。<写真:窪田亮>

勝った選手はトーナメントを勝ち進んでいきますが、負けた選手同士でもトーナメントを組んで順位決定戦を行います。この方法で勝っても負けても各選手は必ず3レースを行うことになり、レース数の疲労度という点で公平性を保つことができます。

第2種目のボルダリングは、一つの課題を全員が競技を終えてから次の課題へと移る、通称"ワールドカップ決勝方式"になります。課題数は3つに減り、制限時間も各課題4分間と短くなります。ただし、競技スタート前に各課題2分間のオブザベーションが与えられます。

また、競技順が暫定順位で変わっていくことも決勝の特徴です。ボルダリングは前の種目のスピードで最下位だった選手からスタートし、リードはスピードとボルダリングの順位を掛け算して最もポイントの大きい最下位の選手からスタートとなります。そして8人の全競技が終了したのち、3つの順位を掛け算して総合順位を出し、メダル獲得者が決定します。

Q(葉月):1人で3種目を行うなんて、疲れてしまいそうですね。

A(羽鎌田):しかも1日ですべてを行います。コンバインドでは体力も重要な要素になってきますね。

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  • 羽鎌田直人(はかまだ・なおと)
    国内唯一のIFSC(国際スポーツクライミング連盟)公認国際審判員。JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング連盟)が主催・主管する公式大会の運営にも携わる。元選手で、日本代表として数々のワールドカップに出場。世界各国を転戦した経験を持つ。

※掲載内容は2019年10月時点の情報です。

取材・文:篠 幸彦
写真:鈴木 奈保子
撮影協力:グラビティリサーチ銀座店

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