祝!世界選手権メダル獲得/楢﨑智亜&野口啓代インタビュー

8月11〜21日に東京・八王子で行われたIFSCクライミング世界選手権2019。男子では楢﨑智亜がともに圧勝で単種目のボルダリング、3種目複合のコンバインドを制して2冠を達成。女子でも野口啓代が同2種目でそれぞれ銀メダルを獲得し、TEAM auの2人が大会の主役となった。

両者はどのような思いで今大会に臨み、そして戦っていたのか。激戦を終えてから数週間後、2人に話を聞いた。

楢﨑智亜
王者に死角なし。圧勝も"想定通り"

世界選手権を控えた2019年、楢﨑選手はどのような気持ちでシーズンに臨んでいたのでしょうか?

「世界選手権のコンバインド優勝を目標にしていたので、今年はW杯の参戦数を減らして、その分を調整に充てていました。世界選手権で優勝を狙っていたにもかかわらず、その他の大会に集中しすぎて、『ここで勝ちにいきたい』という時になかなかコンディションが上がらなかった昨年の経験があったので」

今大会、最初のボルダリング単種目では順当に決勝へと勝ち進み、完登者が楢﨑選手のみという結果で2016年大会以来の王座奪還を果たしました。昨年大会は惜しくも表彰台に上がれませんでしたが、今回はどんな目標を持っていたのでしょう?

「やはりコンバインドが大会最後に控えていたので、もともとボルダリングで優勝を狙う予定ではありませんでした。でも、自分のプライドとして勝ちたいというのはありましたし、W杯で年間優勝した今シーズンは流れも自分に来ているだろうと。またコンバインドを考えても、ここで1位を獲れば大会後半をかなり安心して戦えると思ったので、決勝の時には完全に優勝を狙っていました」

そして大会最終種目のコンバインド。予選(20人)を3位で通過して迎えた決勝(8人)は、第1種目スピードの初戦が弟でありTEAM auの仲間、楢﨑明智選手との対決でした。

「予選でも一緒に登っていて、世界選手権で2人で登るなんてもうないかもって話していたんですけど、まさか決勝ですぐやるとはって感じでしたね。僕らはいつも一緒に練習しているので、お互い『いつも通りいけばいいよね』ってことで、プラスに働いたと思います」

兄弟対決を制した後、ミカエル・マウェム(フランス)との1/2ファイナルでは自身の持つ日本記録を更新して勝利します。その後のビッグファイナルには敗れましたが、2位スタートとなりました。

「あそこでミカエルに勝てるかどうかがコンバインドの勝負を分けるだろうと考えていたので、かなりいい流れになったと思います」

続く第2種目ボルダリングは全3完登。特に第1、第2課題は出場8選手で唯一の完登でした。

「W杯で年間優勝した自信もありましたし、僕の前まで全員登れていなかったので、悪い言い方かもしれないですが、すごく楽しかったんですよね(笑)。ここで俺だけが登ったら沸くな、じゃないですけど。逆に、みんなが登っていて自分に順番が回ってくるのは嫌い(笑)。できることをやらなきゃいけないような感じがして」

teamau_2019_09_03_01.jpg
プレッシャーは感じていなかったのですか?

「プレッシャーはなかったです。決勝が一番落ち着いていました。大会前の記者会見でも言ったんですが、『来年の代表権を獲得する』って思うと緊張してしまう部分があるけど、『世界一になりたい』って考えるとワクワクや楽しみの方が大きくなってきて。だからずっとそれ(世界一)を目指してやっていました」

迎えたラストのリードも2位で終え、最終的に合計4ポイントという圧勝劇でした。優勝を決めた直後はどんな心境でした?

「ここまで想定通りにいくとは思わず、感動するかなって思っていたんですけど、全然しなかった(笑)。それに勝つといつも調子に乗ってしまうので、そうなったらマズいなって(笑)」

表彰台を狙える位置にいながら5位に終わった明智選手は、『智亜に勝てるのは明智しかいないって言われるくらい強くなりたい』と話していました。

「現時点のまま練習していたら無理だよっていうのは言いました。俺もこれからさらにトレーニングするから、死ぬ気で強くなる覚悟があるなら頑張れよって」

一緒にトレーニングにする機会が多いと思いますが、助けられている部分はある?

「それはありますね。昔から一緒にトレーニングしていて、明智が伸びてくると僕も脅威に感じて頑張れる部分がある。トレーニングはやっぱり気が許せる仲じゃないとやりづらい部分があるので、そういった意味でも僕たちはすごくプラスになっていると思います」

世界選手権の会場ブースには、日本各所を周ったTEAM au応援フラッグが掲げられました。

「嬉しかったです。みなさんからの応援は、ギリギリの場面で自分の背中を押してくれるものの一つなので、おかげで頑張れたなと思います」

会場での声援はどうでしたか?

「年々、応援がうまくなってきている気がします。『ガンバ』って言ったり、クライミングって盛り上がるポイントが難しいスポーツだと思うんですけど、すごく合ってきている感じがあって。自分が危ない時に声援を送ってくれたり、完登すれば思いっきり盛り上がってくれたり、登っていてすごく気持ちよかったです」

――今後の出場予定は?

「W杯の廈門大会でリードとスピード、印西大会のリード最終戦に出場する予定です」

――来年に向けて、どこを高めていきたいですか?

「やっぱりスピードとリードをもっと突き詰めたい。スピードは5秒台を絶対に出せるようになりたいですね。コンバインドでは決勝が8人になったことで、スピードに強い選手が入ってくる可能性が高まった。そうなった時のために、良いタイムを持っておきたいです」

――リードに関しては?

「限界になってからの現場処理能力を磨いていきたいです。初めて見た課題にトライしてどこまで粘れるかだったり、どこまで高度を伸ばせるかだったり、実戦的な練習をもっとたくさんしなきゃいけないですね」

teamau_2019_09_03_02.jpg
<WCH2019 写真:窪田亮>

野口啓代
ベストを尽くした"集大成"の大会

今大会の前日記者会見で野口選手は「この世界選手権は集大成の大会にしたい」とおっしゃっていました。振り返ると、集大成という意味ではどんな大会でしたか?

「今大会は3種目とも今の私にできるベストを出したいという思いで臨みました。そんな中で単種目でもそうですし、コンバインドの予選、決勝を通して3種目すべてでベストが出せたと思います。スピードはコンバインドの予選で自己ベストを更新することができ、ボルダリングではコンバインドの決勝で今シーズン初めてヤンヤ(・ガンブレット)選手に勝って1位となることができました。最後のリードでも今までで一番出し切る登りができたと思います。単種目が終わった時も、コンバインドが終わった時も、こんなにうまくいくとは思わなくて、もう怖いくらいでしたね」

単種目にはどのような目標で臨んでいたのですか?

「ボルダリングは最低でも2位という目標で、優勝を狙っていました。今シーズンはずっと2位が続いていたこともあって、その成績を下回る順位、パフォーマンスは出したくないと思っていたんです。あと、単純に世界選手権でヤンヤ選手に勝ちたかったですね。結果的に2位で今大会のスタートを切ることができて、その時点でコンバインドの予選進出20人には入れると感じていました。良い流れができたと思います」

大会は11日間の長丁場でしたが、うまくいった中でもキツい瞬間はありました?

「ボルダリング予選、準決勝・決勝、リード予選と3日間の連登があり、リード予選の朝が一番キツかったですね。睡眠時間も短かったですし、ボルダリング決勝でアドレナリンが出まくった次の日のコンペだったので、気持ちの切り替えも追いついていないと感じていました」

体力的には問題ありませんでしたか?

「体力的にはコンバインドの予選の日が一番つらかったですね。とにかく1日がすごく長かったです。コンバインドの予選はいつもそうなんですけど、ちょっと間延びしてしまうというか。指皮などは大丈夫だったんですが、競技間の待ち時間が長かったり、出番が遅かったりと、ウォーミングアップの仕直しとか時間の使い方が難しいんですよね」

タフなラウンドとなった単種目の後のコンバインドで、自分のベストを出せるというのはあらためてすごいことですね。

「でもコンバインドで3種目ともうまくいくというのは、相当難しいことだなと感じましたね。ヤンヤ選手でも予選のリードで失敗したり、決勝のスピードでうまくいかなかったり、3種目すべてうまくいった選手はほとんどいませんでした。そういう中でもコンバインドの予選、決勝とショウナ(・コクシー)選手が3種目ともうまくまとめてきたのは印象に残っています」

teamau_2019_09_03_03.jpg
以前のように強いコクシー選手が戻ってきて、ガンブレット選手も強力でした。そんなライバルたちがいる中で銀メダル2つという結果は、あらためて自信になったのではないでしょうか?

「自信になりましたね。ただ、やはり自国開催だったということは大きかったと思います。これが去年のインスブルック大会や2016年のパリ大会であれば、ここまで出し切れていなかったです。私自身がこの大会を最後としていたこともありますけど、ホームゲームだったからこそ出し切れたと思っています。日本人が男女4人ずつもコンバインドの決勝に残るなんて思ってもいなかったので、それも含めて日本開催の力だと感じました」

世界選手権の会場ブースには、日本各所を周ったTEAM au応援フラッグが掲げられました。

「当日まで会場に来るとは知らなかったのでびっくりしました。自分へのコメントも探しちゃいましたし、フラッグと記念撮影もしましたね。八王子駅でも改札を出た目の前に大きなTEAM auの吊り広告があって、そうやって事前に準備してくれていたことがすごく嬉しかったです」

会場でも大きな声援が飛んでいましたが、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。

「やっぱり今回の歓声はすごく嬉しかったです。登っていて『あ、あの人の声だな』ってわかったりもするんです。コンバインドの予選や決勝にはたくさんの方が来てくれました。それが力になったと思います」

――今シーズン残りの出場予定は?

「10月に行われる廈門でのリード、スピードのW杯、印西でのリードW杯に出場する予定です」

――来年への意気込みを教えてください。

「ここまでは代表枠を取ることに全力を注いできました。これからは頂点に立つことにフォーカスしていきます。来年は今大会以上のベストを出して、キャリアの中で最高のパフォーマンスが発揮できる集大成の大会にしたいです」

teamau_2019_09_03_04.jpg
<WCH2019 写真:窪田亮>

※このインタビューは2019年9月10日に収録されました。

取材・文:CLIMBERS編集部、篠幸彦
写真:永峰拓也

powered by climbers