いまさら聞けないボルダリングの基礎知識 クライミングシューズ編

その奥深さを知れば知るほど面白くなるボルダリングだけれど、始めてしばらく経っても
「そういえば、どうしてなんだろう?」と疑問に思うことや場面があるはずだ。そんな知
っているようで知らない基礎知識を連載形式で解説しよう。第1回はクライミングシューズ
について。「初心者が『ボルダリング検定』で5級合格を目指す」シリーズですっかりボ
ルダリングにハマったモデルの葉月蓮さんが、クライミングジム&ショップ「PUMP」で
物販を担当する手塚茂季さんに話を聞いてきた。

クライミングシューズの役割と機能

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Q(葉月):普段、クライミングシューズを何気なく使っていますけど、どんな機能があるのかって実はそんなにわかっていないんですよね。そもそもどんなシューズなんですか?

A(手塚):基本的に私たちがやっているクライミングというのは、自分の手と足と体だけで登るもので、使う道具はクライミングシューズとチョークくらいです。その中でクライミングシューズというのは、あくまでも自分のクライミング能力や身体能力を補助する道具であるということを覚えておいてください。

機能としては、クライミングシューズの6~7割は"ラバー"と言ってゴムでできています。このラバー部分のフリクションで登りを補助するというのが、クライミングシューズのメインの機能になります。ラバーにも様々なものがあって、硬いものから柔らかいものまであります。

Q(葉月):硬いラバーは全然曲がらないんですね。でもこれだけ硬いと登りづらくないですか?

A(手塚):例えば小さなものに足先を使って乗るとします。この時、柔らかいラバーのシューズで乗ると力が点に集中してラバーが負けてしまいます。ラバーがグニャっとなることで、自分の足の指で支えて立つことになり、安定して立つのが難しくなります。それが硬いラバーだと、ラバーが負けません。そのおかげで足先の一点に力が入るので、柔らかいラバーよりも安定して乗ることができます。バレエシューズをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。バレエシューズはつま先が硬くできていて、つま先立ちする時に安定しますよね。

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ラバーが硬いと、小さなホールドなどに点で乗った時に安定する。

ただ、逆にハリボテと呼ばれる平たいホールドに乗る時、硬いラバーでは安定しません。バレエシューズもつま先立ちは良いけど、普通に歩こうと思うと歩きづらいですよね。柔らかいラバーのほうが足の力を捉える面積が広い分、安定してボテに乗ることができます。先ほど、クライミングシューズは補助する道具と言いましたが、ホールドや岩など、どんな形のどんなものに乗るかによって必要な補助の種類が変わるので、シューズ選びも変わってきます。その時、ラバーの硬さというのは大きなポイントになります。点に乗りたい時は硬いラバー、面に乗りたい時は柔らかいラバーと覚えておきましょう。

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平らなホールドなど、できるだけ広い面積に乗る場合は柔らかいラバーが適している。

クライミングシューズの種類とパーツ

Q(葉月):ラバーの硬さ以外にもクライミングシューズのポイントはあるんですか?

A(手塚):クライミングシューズはいくつかのパーツによって構成されているので、そちらをまず説明しましょう。まずは"ヒール"。そのままかかと部分のことで、かかとを引っかけるヒールフックで使うパーツになります。それから先ほどの話にも出た足先の"トウ"、それとトウフックなどで使う足の甲の部分にあたる"トウラバー"があります。ただ、"ヒール"と"トウラバー"に関してはビギナーシューズには付いていないことも多いです。

Q(葉月):どうしてビギナーシューズには付いていないんですか?

A(手塚):初心者の方の場合、そういった機能よりも履き心地のほうが大事だからです。ラバー部分が増えれば、それだけフリクションも効くので登りやすくなるかもしれません。ただ、ラバーはやはりゴムなのでラバー部分が増えるほど硬くて履き心地が悪くなります。クライミングシューズを履き慣れていない初心者の方が、ラバーに覆われたシューズを履くとすぐ痛くなって履くのが辛くなってしまいます。

そうなるとクライミングを楽しめなくなりますよね。ですからビギナーシューズはラバー部分を減らして、履きやすいものになっています。それに最初のうちはまだヒールフックやトウフックといったテクニックは使わないと思うので、そういったパーツが必要ないというのもあります。私も初心者の方にシューズを勧める際は、とにかく履きやすいものを勧めるようにしています。

Q(葉月):確かにシューズを履いて痛いと、ジムに行くのも嫌になっちゃいます。クライミングシューズにはシューレースのタイプもあるんですね。

A(手塚):フィッティングを調節する機能で、主にシューレース(くつ紐)タイプとベルクロタイプがあります。ボルダリングなどインドアのクライミングの場合、ベルクロタイプがおすすめです。ベルクロは着脱がしやすく、ラバーの柔らかいシューズに多いタイプになります。最近のボルダリングのコンペではボテに乗ったり、横に移動したりという課題が主流なので、トップ選手でもほとんどの人がラバーの柔らかいベルクロタイプを履いています。

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着脱は面倒だが、足先までフィッティングがしやすいシューレースタイプ。

一方のレースタイプはベルクロと比べると着脱が少し面倒です。その代わり、足先までフィッティングできるのが特徴です。シューレースでぴったりとフィッティングすることで、しっかりと足先に力を伝えられるので硬いラバーのシューズに多いタイプです。こちらは主にアウトドアの岩場で使われるシューズになります。

クライミングシューズの慣らし方

Q(葉月):私はクライミングシューズを買った時に家で履いたり、ラバーを揉んだりしていたんですけど、買ったばかりのシューズを慣らすいい方法はあるんですか?

A(手塚):冒頭でも言った通り、クライミングシューズは6~7割がラバーでできているので、履き心地というのはこのラバーが占めています。市販のシューズは使う人の足の形に合わせて作られているわけではないので、どうしても足に合う部分と合わない部分が出てきます。でもラバーはゴムなので、履いていくうちに伸びて徐々にフィットしていきます。ではどうすれば早く足にフィットしていくかということですよね。

一つはゴムなので熱で柔らかくなるというのがポイントです。例えばコタツの中に入れて柔らかくしてフィットさせる人もいると聞きますが、コタツは熱が高過ぎてシューズの接着剤が溶けてしまう恐れもあるのであまりおすすめしません。一番は葉月さんもやっているように、人肌で揉んであげることが効果的だと思います。あと寒い冬より、暑い夏のほうがフィットしやすい時期と言えます。

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クライミングシューズのメンテナンス

Q(葉月):クライミングシューズのお手入れで注意したほうがいいことはありますか?

A(手塚):クライミングシューズは基本的に素足で履くので、やっぱり気になるのは臭いですよね。汗をかくとそれが菌となって臭いの元になります。お手入れでまずやることは風通しの良いところに置いて乾燥させることです。

登ったあとの汗をかいたシューズをカバンの中に入れっぱなしにしておくと、洗濯物の生乾きのようになってしまいます。ジムから帰ってきたら早めに乾燥させるために、風通しのいいベランダなどで干してあげることが大切です。市販の乾燥剤などを入れておくのもいいと思います。

あとはラバーについたチョークを拭くことですね。やはりラバーは綺麗な状態が一番フリクションが効きます。でも登っているうちにラバーの隙間などにチョークが入ってしまうと、フリクションが落ちて滑りやすくなります。普通のタオルなどでもいいので、ラバー部分は小まめに拭いてあげるといいと思います。

Q(葉月):クライミングシューズは水で洗っても大丈夫なものですか?

A(手塚):基本的には大丈夫ですが、シューズのタイプによっては気をつけたほうがいいものもあります。シューズのラバーの下のソール部分にシャンクというソールの硬さを出すものが入っています。シューズによってはこのシャンクが紙製のものがあって、その場合に水洗いしてしまうとシャンクの機能が落ちてしまいます。今はプラスチックのシャンクが主流なので紙のシャンクは多くはないのですが、洗う際にはシャンクのタイプを確認することをおすすめします。

クライミングシューズの買い替え時

Q(葉月):シューズを買い替えたほうがいいタイミングってあるんですか?

A(手塚):シューズの寿命はラバーの硬さによって異なります。簡単に言えば柔らかいほど劣化が早くなります。硬いシューズのほうがラバーの一番外側の層が厚めになっているので耐久性も高く、長く使えます。柔らかいほうが摩擦による擦り減りが早く、耐久性は低くなってしまいます。シューズを買い換えるタイミングとしては、この一番外側のラバーが擦り減って下の層のラバーが見えてきたらもうアウトです。

クライミングシューズの一番の機能は、この一番外側のラバーのフリクションです。これがなくなると単純に滑りやすくなり、予期せぬスリップによる事故や怪我につながります。ですから下の層が見える前に買い換えることをおすすめします。特にクライミングシューズは主にトウ部分を使うので、トウのフリクションの劣化に注意しましょう。早めに2足目を買っておいて、並行して使いながら1足目が使えなくなったらすぐに移行できるというのが理想ですね。

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擦り減りやすいトウ部分。少しでも下の層のラバーが見えたらアウト。早めの買い替えを検討しよう。
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  • 手塚茂季(てずか・もとき)
    日本全国に7店舗を展開するクライミングジム&ショップ「PUMP」の物販グループに勤務。シューズやチョークバックなどクライミングアイテムの輸入、商品広告などを主に担当し、国内最大級のオンラインショップ 「PUMP ONLINE SHOP(http://pump.ocnk.net/)」の運営にも携わる。

取材・文:篠 幸彦
写真:鈴木 奈保子
撮影協力:B-PUMP 荻窪店

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