スピード種目世界初披露!新テクノロジー「スポーツ行動認識AI」とは?/au SPEED STARS 2019

5月12日に東京・昭島のモリパーク アウトドアヴィレッジで開催されたスピードクライミングの国際大会「au SPEED STARS 2019 SPEED CLMBING CUP」。その会場のビジョンカーにて、KDDIおよびKDDI総合研究所によって新たに開発されたテクノロジー「スポーツ行動認識AI」を活用したリプレイ映像が世界で初めて披露された。

映像のみで瞬時に登りを解析

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「スポーツ行動認識AI」とは、4Kカメラで撮影された高画質の映像の中から選手を色や形の特徴によって割り出し、そこから指先を含む38点の骨格情報を取得。その情報をAIが解析し、選手がどのように動いているかを瞬時に認識するシステムだ。クライミングでは選手がどのような姿勢でどのホールドをどう掴んでクリアしているかが把握できる。映像から骨格情報を取得する際、厚手の服を着ている状態でも認識可能で、海外の体の大きな選手や日本の体の小さな選手など、どんな体のサイズでも問題ない。

従来のこうした選手の動きを解析するシステムでは、ホールドにセンサーを置いたり、選手にセンサーを付けたりする必要があった。それが選手に負担をかけることなく、高画質のカメラ映像のみで瞬時に解析できることが「スポーツ行動認識AI」の優れている点である。

新たな観戦体験を提供する

<会場でもビジョンに映したリプレイ映像:KDDI総合研究所提供>

では、この「スポーツ行動認識AI」を活用してどのようなことができるのか。一つは、この日の会場のビジョンカーでも披露されたような観客への映像コンテンツ提供だ。今回のリプレイ映像では、選手が登った直後にその選手の登りを「スポーツ行動認識AI」で即座に解析。選手の登った軌跡が線でわかる映像に、世界記録バーを重ねてリプレイが流された。水泳のテレビ中継で見られるようなイメージだ。世界記録とどれくらいの差があるのかを視覚的に捉えながら、選手の迫力ある登りを楽しむことができた。このAIは選手の動きを骨格から解析するので、スピードクライミングだけでなく、ボルダリングやリードなどでも選手たちの動きの映像を重ねてその登りを比較することができる。

また、この日はリプレイ映像だったが、リアルタイムの映像に世界記録やその大会で暫定トップの選手の動きを重ねて表示することも可能で、その映像は会場のビジョンとの連携だけでなく、ライブ配信や他会場、パブリックビューイング会場のビジョンとも連携できるという。さらに将来的には5Gの通信端末が普及すれば、会場にいる観客は自分のタブレット端末などから解析した映像を見ることが可能になる。「スポーツ行動認識AI」を活用することで、クライミングの迫力だけではない新しい観戦体験を提供できるのだ。

選手の技術向上もサポート

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もう一つは、選手のサポートツールとしての活用だ。「スポーツ行動認識AI」を使えば他の選手の登りや過去の自分の登りを映像で詳細に比較することができる。これまでも選手たちはタブレットのカメラを使って自分たちの登りを撮影し、それを元に分析をしていたが、AIを使うことでどの箇所でどのように体を動かしていたかが骨格レベルでわかるので、良い時の登りも悪い時の登りも選手には非常にわかりやすくなる。

また、スピードクライミングでは練習時に自ら映像を撮りながら手動で記録を計らなければならなかったが、「スポーツ行動認識AI」のシステムを使えば正確なタイムも計測可能だ。あらゆる面で選手たちが手動でやっていたものをAIの解析を利用することで、より正確で精度の高いフィードバックを得られるようになり、コーチングに大いに役立てることができるのだ。

そこで会場で実際に体験したTEAM au選手にも意見を聞いてみた。

<藤井 快選手>
「重心や動きのブレをなくすためのトレーニングに活かせそうですね。どっちに体が寄っているかなど、普段の動画だけでは服も着ているしはっきりわからないので、登りの軌道を追ってくれる映像があったらいいなと思っていました。今すぐにでもデータが欲しいです。ゆくゆくはボルダーにも使えればいいですね」

<楢﨑智亜選手>
「良かった時のトライとダメだった時のトライのライン取りを比較して、体がこっちのラインに行ったから流れているねとか、だから蹴りやすかったんだなとかがわかるので、練習に使えたら便利ですね。ボルダーでも活用してほしいし、ボルダーこそポジション取りが重要だと思っています」

<野口啓代選手>
「これまでは手動で『この地点で何秒』というふうに測っていましたが、このデータがあれば正確ですし、苦手なパートやここを練習すべきというポイントもはっきりわかる。他の選手との差も明確になるし、ライン取りは目で見るのとも異なると思うので、自分の登りのデータがあれば練習がスムーズになりますね」

観戦ツールとしても選手へのサポートツールとしても、現在はまだ高性能の4Kカメラで撮影した映像を「スポーツ行動認識AI」で解析し、それをPCの画面上に表示するという段階である。しかし、将来的にはタブレット端末のカメラで映像を撮影し、その場で解析システムに映像を送り、すぐに解析結果をタブレット端末から得られるようになるという。トップ選手だけでなく、一般のクライマーも気軽に使うことができるツールにしていくことがKDDIの目指すところだ。
またKDDIでは、このシステムを選手のサポートツールとして使用するだけでなく、放送局のライブ配信に技術提供するなどして事業化することまで構想している。
「スポーツ行動認識AI」というテクノロジーが、観戦ツールとサポートツールという2つの軸からスポーツシーンに新たな価値を生み出す日もそう遠くない。

取材・文:篠幸彦
写真:窪田亮

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