クライミングに重要な『ココロ』の整え方(後編)

クライミングを始めていざコンペに出場してみると、普段登れていたレベルの課題も思うように登れないという経験をしたクライマーも多いはず。そんな時に大切なのが、メンタル面の準備だ。今回、クライミングにおける「ココロ」の重要性を語ってくれたのは、TEAM auの野口啓代選手、楢﨑智亜選手をメンタル面でサポートするスポーツメンタルコーチの東篤志氏。後編ではより実践的に、コンペ前にココロを整えるためにはどういった準備が必要なのか、コンペ中にどういった対応をすればよいかなどを実例も交えて教えてもらいました。

"自分会議"の3つのステップを実践!

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前編でも少し触れましたが、野口選手、楢﨑選手をサポートする際に私たちはメンタルコーチング(自分会議)を行います。この自分会議とは、コーチが選手に対して良質な問いかけをし、潜在意識まで深掘り、選手が自分自身と向き合うサポートをします。

前編の後半で示したチャートにもあるように、自分会議を行う際は"タイムライン"と言って、過去・未来・現在と3つの時間軸で自分と対話をしていきます。この対話で状況を整理し、価値観や感情、達成したい未来を思い描き、実際のアクションプランを立てていきます。

自分会議を取り入れる際、3つのステップの中でも①の"振り返りの質"がとても重要です。その日、その時に起こったこと、感情や状況を振り返り、もったいなかったことやうまくできたこと、今後に活かせる要素を抽出して、それをヒントに次に何をするかを決めていきます。振り返りの質を自分自身で高める方法の一つに"日記"があります。頭の中で振り返るのもいいですが、日記を書くことによって振り返りの内容を可視化できることでより明確になります。

この毎日の振り返りの質が高まることで、確実に成長している感覚を得ることができます。ジムに行ってなんとなく登り、なんとなく気持ち良かった、なんとなく楽しかったというのを積み重ねても、点が繋がらず線になっていきません。それを日々振り返ることで点と点が繋がり、線となって成長スピードは高まっていきます。昨日の自分より勝っている、成長しているという感覚はとても大切ですし自信もつきます。

コンペ出場時にできるセルフメンタルコーチング

しかし、いざ自分会議を実践しようと思っても一人ではなかなか難しいもの。そこで一般のクライマーでも取り入れられる、コンペに向けたセルフメンタルコーチングを伝授します。以下のコンペ前、コンペ中、コンペ後に【できること】を参考に、コンペに向けて準備してみましょう。

【できること】
コンペ前① マインドの準備
② メンタルリハーサル
③ 失敗から成功体験を作る
④ 成功時と失敗時の差を明確にしておく
コンペ中① コントロールできることにフォーカス
② 「●●しない」ではなく、「●●する」という思考
③ フローな状態を作る
コンペ後① 振り返り

コンペ前にできること

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<写真:JMSCA/アフロ>

①マインドの準備
コンペでどんな心で挑んで、何を表現するのかを明確にしておく。ついついコンペでは、第一に戦術・戦略、第二に体の状態・スキル、第三にマインドとなりがちです。実は、一番大事なのはマインドの部分なのです。なぜ、何のためにこの大会に出て、何をしたいのかというマインドが大切になります。それがまずあって、体の状態・スキルや戦術・戦略などが大事になってくるのです。

②メンタルリハーサル
メンタルリハーサルも大切です。前編で話した"想定内を増やす"ことです。コンペ中に起こる様々なシチュエーションをイメージして心の準備をして、そのイメージを持って練習していきます。

③失敗からの成功体験を多く作る
コンペ中に失敗することもあると思います。そこでもうダメだと思ってしまうと、そこからは何もうまくいきません。そこで練習から失敗した場面を想定して、そこからどう成功させたかという体験を多くクリエイトすることが重要です。トップ選手であってもすべての課題を一撃できるわけではありません。失敗した中でどう立て直して、どう挑戦して成功したか。そこをしっかりと意識して、感じながら練習しましょう。

④成功時と失敗時の差を明確にしておく
うまくいった時といかなかった時の差を自分自身で認識しておくことも大切です。これだからうまくいった、これだからうまくいかなかったという、自分の状態のパターンの引き出しが多ければ多いほど、コンペ中のあらゆるシチュエーションに対応できます。そのためには自分の良い時と悪い時の差を明確にしておきましょう。探求していくと意外な関係性が見えてくることがあります。

コンペ中にできること

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<写真:平野敬久/アフロ>

①コントロールできることにフォーカスする
結果や他の選手、観客というのはコントロールできません。そういったコントロールできない周りのことではなく、自分のことにフォーカスする意識が大切です。例えば、一つのテクニックとして"アイコントロール"というものがあります。自分の指紋の一点を集中して見つめることで、その一点に意識が集中して他の雑念が抜けていきます。

②「●●しない」ではなく、「●●する」という思考
脳は肯定語、否定語を判断しづらいと言われています。例えばゴルフで「池に気をつけてください」と言われるとつい池を意識して池に打ってしまいがちです。そうではなく「フェアウェイ左を狙ってください」と言われるとそちらを狙えるようになります。人間は「●●しないで」と言われると「●●」に意識が向いてしまうものです。本番で緊張した時などは「緊張しない」ではなく、「深呼吸をゆっくりしよう」と意識をしたい方に向けさせるようにしましょう。

③フローな状態を作る
自分の心がフローな状態(機嫌の良い状態)をいかに作るかというのが重要です。よく聞かれる「ゾーン」という状態は、フローな状態から極限の集中状態になり、そこからゾーンに入ると言われています。このフローな状態というのは過度な緊張や不安があるとうまくいきません。自分をいかにご機嫌な状態にするかがポイントになります。そのためには表情、態度、姿勢が大事になります。例えば猫背でうつむいた姿勢ではなかなかポジティブなマインドになれないですし、厳しい表情をしていてはリラックスできません。姿勢をしっかりと正して、場面により程よい笑顔を作ることでご機嫌な自分というものをコントロールできるようになります。

コンペ後にできること

①振り返り
コンペ後は良質な振り返りが大切です。すぐに振り返って良いものだけ取り出して、いらないものはすぐに捨てるようにしましょう。自分で振り返る時に以下のようなことを最初の問いかけとして、そこから自分自身でどんどん深掘りし、根底にある答えを引き出すようにしてみてください。

ポジティブな点
についての問いかけ
良くなかった点
についての問いかけ
・何がよかった?・もったいなかった
ことは?
・何がポイント
だったか?
・もう一度やり直すとしたらどうする?
・どんな感情だった?・過去と対比してどうだったか。
・何を次に
活かせそう?
・何を次に
活かせそう?
・気づいたこと、
学んだことは?
・気づいたこと、
学んだことは?

ただ、これら問いかけに対して出てきた最初の答えは、ほぼ本質の答えではありません。例えば「緊張しなかったのが良かった」と思ったら、次は「緊張しなかったことがどう良かったのか」と問いかけてみましょう。そうして、なぜ?なぜ?なぜ?とどんどん深掘っていくことで本質の答えが浮き上がっていきます。その本質の答えを頼りに仮説、実行、検証というメンタルコーチングにおいて大事なプロセスへと進んでいきましょう。

チャレンジすること自体に価値がある

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メンタルコーチングをしていく中で"チャレンジできているか"というのは大事な評価軸になります。失敗を恐れる人は程々のところ、心地良いところに留まりがちです。しかし、そうすると次のステージには進めません。人は課題感を持ってチャレンジしないと、同じところで刺激が終わり成長しづらくなります。チャレンジするからこそ、高い壁を超えられる時もありますし次に繋がる失敗ができます。私は、そのチャレンジそのものに価値があると考えています。

クライマーの方たちは登れないグレードを登れるようになることが楽しくて挑戦されていると思いますが、日々の生活でも同じように、失敗を恐れず挑戦する感覚を大切にしてほしいと思います。失敗イコール「ダメなこと」ではなく、失敗イコール「成長の種」というマインドになれると、人はどんどん挑戦してどんどん失敗し、その失敗を財産にできます。そこから次にどう行動するかということに繋げられれば、成長スピードが上がり悩みの質や失敗の質も変わっていきます。

自分のことにフォーカスできないと、例えば会社のせい、環境のせい、上司や部下といった他人のせいにしてしまいがちです。そうではなくしっかりと当事者意識を持って、そこから自分は何ができ、どうチャレンジできるのか。そう考えることができるかどうかで、成長度や幸福度が大きく変わっていくのでないでしょうか?

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  • 東篤志(ひがし・あつし)
    フィールド・フロー認定スポーツメンタルコーチ
    ReNew表参道、ポルクス整骨院、アリエス整骨院、BRAND NEW STARSなど東京、神奈川に整骨院、トレーニングジムを6店舗展開。スポーツクライミングの他、 プロ野球やサッカーなどアスリートのメディカルトレーナー、メンタルコーチとしてメンタルとフィジカル両面から選手をサポート。チームビルディングセミナーやリーダー養成講座、講演なども行っている。
    https://www.instagram.com/higashi_atsushi/

取材・文:篠幸彦
写真:鈴木奈保子/窪田亮

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