野口 啓代インタビュー

集大成の世界選手権へ向けて 女王の飽くなき挑戦

W杯年間総合優勝4回、W杯通算優勝21回は男女を問わず歴代最多タイ記録だ。
昨年新たに取り組んだ、スピード、ボルダリング、リードの3種複合(コンバインド)でも国内、アジアでその頂点を極めた。今、日本が誇るクライミング界の女王の眼差しは世界選手権を見据えている。今年8月、日本で初開催となる大舞台に向けて、野口啓代の戦いはすでに始まっている。

BJCとSJCで得た収穫

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<BJC2019 写真:JMSCA/アフロ>
2019年シーズンが始まりました。ボルダリングジャパンカップ(BJC)とスピードジャパンカップ(SJC)の2大会から振り返ってください。

「今年は昨年と違って国内大会ではまず代表権を勝ち取るというよりは、8月に開催される世界選手権に向けて調整しているという段階です。その中で臨んだ2大会でしたが、BJCもSJCも今の自分の弱点がわかったという意味では凄くよかったなと感じています」

BJCファイナルは第2課題が鬼門となりました。

「BJCは決勝4課題で第2課題だけ登れませんでした。3段階のコーディネーション系(連続した動き)が今の克服するポイントですね。それ以外は大きな穴も感じなかったですし、かなり明確に自分の弱点が見えてきました」

 スピードはいかがですか?

「本当に寒い日だったのでベストタイムは出ませんでしたが、目標としていた表彰台に乗れてほっとしています。これまでは満足のいくトレーニングができない状況でしたが、SJCの一週間ほど前に地元の茨城県・龍ケ崎市にスピードの壁が完成しました。これからは練習環境も整いましたし、さらにSJC男子で優勝した池田(雄大)選手にコーチをしてもらえることになりました。これで本格的にスピードの強化を進めていけると思います」

 SJCの池田選手は相手がミスした後に登りを切り替えて絶対に落ちないレースをするなど、さすが専門選手という印象でした。

「そうですね。スピードについては、彼が一番わかっているなと思います。SJCの前も一緒に龍ケ崎で練習はしていましたが、本人も大会があったので、教わるというよりは一緒に練習をしている感じでした。今後は世界選手権に向けて本格的に指導を受けます。技術的な小さなことからレースの戦略などいろいろ教えてもらえたらと思っています」

8月、最高の大会で最高の結果を

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<世界選手権2018 写真:窪田美和子/アフロ>
 2018年はどんなシーズンでしたか?

「昨年は6月のCJC(コンバインドジャパンカップ)、8月のアジア競技大会、11月のアジア選手権と、日本とアジアのコンバインドではすべて優勝することができました。目標としていたタイトルは獲れましたが、アジア競技大会の後に臨んだ世界選手権で疲労が出てしまい、ピーキングがしっかりできませんでした。コンバインドの結果も4位で表彰台に乗れなかったということは、私の中で一番の反省点です。今年も国内、アジア、W杯とたくさん大会はありますが、一番大きな世界選手権にピークを合わせていきます。獲れそうなタイトルをたくさん獲るというより、本当に獲りたいタイトルを狙いに行くという戦略に切り替えていきます」

 昨年から本格的にコンバインドに取り組みましたが、この種目の難しさは?

「得意種目で1位を獲ることが重要です。昨年優勝したコンバインドはボルダリングで1位、リードで2位、もしくは1位を獲ることができました。私の強みはボルダーとリード。選手ごとに戦略や得意不得意は違いますが、私の場合はスピードで出遅れずにボルダーで良い位置について最後のリードで安定した登りをするというのが"自分の勝ち方"だと再確認できました」

 1位を目指すのはボルダリングでしょうか?

「そうですね。ただ今年からはコンバインドの決勝進出者が6名から8名に増えるので、ダメだった種目が最低6ポイント(6位)から8ポイント(8位)になるので、掛け算したときに大きな数字になってしまいます。どの種目も半分以下に入ってはダメですし、優勝を目指すならば全部3位以内に入ることが理想だと思います」

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 今年もW杯が4月から開幕しますが、野口選手は現在W杯通算21勝。あと1回優勝すると男女問わず歴代最多優勝という大記録が掛かっています。

「昨年、思いがけず最多優勝に近づいているということを知りました。もちろん今シーズン狙いたいと思っています。最多優勝を達成して、世界選手権を迎えたいですね」

 8月には世界選手権が日本で初開催されます。

「昨年の八王子ボルダリングW杯は素晴らしい大会だったと思っています。クライマーはもちろん、大会運営や課題の質、会場の盛り上がりも昨年で一番評価の高いW杯だと感じています。8月はそれを超えるような大会になってほしいです。昨年のインスブルック、2016年のパリ、どちらも記憶に残る素晴らしい世界選手権だったので、それ以上に盛り上がってほしいです。私自身も最高の状態で大会に臨んで、次のステージに進んでいければと思います」

 地元の大歓声はプレッシャーになりますか?

「やはり大会に臨むコンディションが大切ですね。プレッシャーだと感じてネガティブにならずに、大きな後押しだと感じられるようにポジティブな状態でその日を迎えたいです」

猫がいるから早く帰りたいです(笑)

 最近猫を飼いましたよね?

昨年の夏から飼いはじめました。サイベリアンという大きくなる品種で成長すると10kgくらいになる予定なんですけど、まだ5kgくらいしかなくて、意外と小さいです。

 お名前は?

2匹いて、ライとラムです。両方オスです。

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<写真:野口啓代 Instagram>
 名前の由来は?

「ライは顔がライオンぽくって。サイベリアンって鼻が高くて横顔がライオンに似ているんです。性格もライオンみたいに堂々としていて、いつも高い所から見下ろしていたり、テーブルの真ん中で寝てるみたいな(笑)。ラムは、毛の色が羊みたいな色をしていて。白にちょっとグレーがかっているというか、すっごいフワッフワなんですよね」

 羊みたいだからラム?

「ラムです(笑)」

 猫はもともとお好きなんですか?

「子どもの頃から実家でも猫を飼っていたので、ずっと猫を飼いたいなと探していたら、たまたまかわいい子を見つけて。家を引っ越すタイミングだったので、ペット可能な家に引っ越して飼い始めました。猫がいると、早く家に帰りたくなりますね」

 Instagramのフォロワーが8万人を突破しました。去年から3万人も増えています。

「最近あまり投稿していなくて、ちゃんとやらなくちゃと焦ってます(笑)。練習に没頭していると携帯を見なかったり、写真や動画を撮影しなかったり、なかか難しいですね」

 クライマーはインスタ好きが多いですが、こういう投稿をするといいよなどアドバイスはありますか?

「猫の写真はいいですね(笑)。猫の写真を載せるようになってから、コメントや知り合いからの連絡がたくさん来るようになりましたね。クライミングだけより私生活とか、猫とか、プライベートっぽい投稿がたまにあったほうが楽しんでくれるのかなって思っています」

 最近はまっていることはありますか?

「『ブロスタ』という携帯のアクションゲームにちょっとはまってます。子どもの頃からゲームって全然やったことがなくて、この歳になって始めてみたんですが、ゲームって難しいなって(笑)。遠くから攻撃できたり、いろいろなキャラクターを使えるんですが、私は完全に突っ込むだけ。自分に似てるって思いますね(笑)」

日本を代表する選手の一人として

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 TEAM auも3年目を迎えました。

「一般の方にも私がau所属選手だということをこれまでより認知してもらえている実感があります。日本を代表するトップ選手が5人も集まっているので、インパクトが凄く大きいですね」

 チームメイトの伊藤ふたば選手も昨年からW杯に参戦しています。

「初参戦ということで苦労した部分も多かったのかなと思います。ただ1年間戦ったことで、世界の中で自分の位置や弱点を確認できたはずです。今年は2年目で勝手がわかっていますし、計画的なトレーニングもできます。きっと昨年以上に活躍してくれると思います」

 野口選手はスポーツクライミング界の代表として、様々な式典やイベントに参加されて、他の競技のアスリートと一緒になる機会も多いです。

「ここ数年はオリンピアンやアスリートとお会いする機会も多いのですが、クライミングのことをリスペクトしていただいているというか、評価や期待が以前よりも上がっていることを実感しています。スポーツクライミングに対してポジティブなイメージを持っていただいていると感じますし、このイメージをみんなで守っていくためにも、ドーピング問題や不祥事などはあってはいけません。2020年以降もスポーツクライミングを盛り上げていくうえで、日本代表選手は全員責任ある立場だと思っています」

 改めて2019年シーズンの目標を教えてください。

「とにかく8月の世界選手権です。昨年のようにたくさんの大会に出場して、色々学ぶというよりは、これまで学んだことをまとめ上げて、その集大成を世界選手権にぶつけるという年になります。トレーニングの内容や3種目のバランスももちろんですが、誰に教わるか、何を克服して、何を伸ばすのかという戦略が必要ですし、自分のこれまでの経験値をフル活用する1年ですね。そういったことを全部含めて凄く楽しみです」

 最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

「たくさんの方に世界選手権を見に来ていただきたいです。声援は登っているときにも聞こえますし、後押しを実感しています。auも力強くクライミングをサポートしてくれているので、選手それぞれもそうですが、TEAM auのことも引き続き応援してもらえたら嬉しいですね」

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※このインタビューは2019年2月16日に収録されました。

インタビュー・文:CLIMBERS編集部
写真:永峰拓也
撮影協力:B-PUMP 荻窪店

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