楢﨑 智亜インタビュー

もう一度。今年こそ。 王座奪還を期す日本のエース

昨年はボルダリングW杯年間2位、コンバインドジャパンカップ制覇など好成績を収めた一方、本人も言う「優勝できる力はあるのに優勝できない」あと一歩の状況が続いた。
パリの歓喜から3年。世界選手権で日本人初優勝を成し遂げたクライマーが、2019年に懸ける思いは強い。その一番の目標、8月の楢﨑智亜に期待しよう。

気持ちが揺れた2018年、その悔しさをバネに

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<SJC2019 写真:田村翔/アフロ>
まず2019年最初の2大会、ボルダリングジャパンカップ(BJC)とスピードジャパンカップ(SJC)を振り返っていかがですか?

「より自信があったのはSJCのほうでした。BJCの直前にS代表(日本チーム)のみんなでインスブルック(オーストリア)に行き、リードとスピードのトレーニングをこなしてきたので。BJCは絶対優勝というわけではなく、昨シーズンが終わってから数カ月でやってきたことの確認ができればという気持ちで出場しました。ひさしぶりの大会で、両方ともすごくワクワクして楽しかったです」

その中でBJCは2位。この結果をどう受け止めましたか?

「個人的にはよかったかなと。予選から3位、1位(準決勝)、2位(決勝)と順位が安定していましたし、穴はだいぶ埋まってきたという感覚があります。ただ、久々の準決勝1位通過で、(競技順が最後になった)決勝では先に登る選手が全員完登して僕は後ろで待っているという場面があったのですが、このパターンが気持ち的に苦手で。どっちかというと、誰も登ってなくて自分の番が来たほうがやりやすいんです。やっぱりワクワクするんで(笑)。そういうシチュエーションでちょっとやだなと思う自分は変えなきゃいけませんね」

SJCは準決勝に進出して4位でした。

「スピードは常に(弟の楢﨑)明智と優勝した池田雄大君と一緒に練習してきました。僕はミスが多い方でしたけど、トレーニングを続ける中で8割くらいの力、タイム的には7秒フラットから7秒2くらいの登りだったら、ミスなくいけるというのがわかっていて、それを大会で確認したかったんです。決勝の第2ラウンドまではうまくいっていましたが、準決勝で(スピードを専門に取り組む)雄大君と当たるとなった時、雄大君がこの大会に懸けているのを知っていたので、相当いいタイムを出してくるだろうと思って自分も全力でいった。そうしたら、やっぱり少しリズムがズレて最後に失敗してしまった感じですね」

「確認したかった」部分の手ごたえは?

「まだ全力でいくと自分のミスしやすいパートで悪い癖が出てしまうのですが、結果は順当だったと思います。あとは、スピードの公式大会で自分自身がどういう感覚になるかも確認できたのは収穫でした」

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2018年をあらためて振り返ると、どんなシーズンでしたか? ボルダリングW杯では年間2位という成績でした。

「昨年は初戦のBJCから調整に気を配り、W杯も前半戦は調子が良く、表彰台に連続で立つこともありました。ただ、大会が続いていく中でトレーニング量が減り、シーズン後半になるにつれてパフォーマンスが落ちているという感覚が自分の中でもあった。一番の目標は世界選手権、その次がアジア競技大会と決めていて、実はW杯では年間優勝を狙う予定はなかったんです。それが途中で王座が見えてきてしまい、そっちも獲りたくなってしまって......やっぱりターゲットを絞って進めばよかったですね」

その世界選手権は、2016年の前回大会で制したボルダリングでも7位に終わりました。

「調子はかなり良く、予選も準決勝も感触は悪くなかったんです。準決勝の3課題目でハマってしまったんですけど、それ以外はすべてフラッシュ、一撃で登ることができていましたし。3課題目でのムーブの読み間違いが本当に悔やまれますね」

国内の大会では昨年、3種目複合のコンバインドジャパンカップ(CJC)で"初代王者"に輝きましたね。

「コンバインドが重要視される時代になり、そんな中での第1回大会で、かなり気合いは入っていました。初代王者という称号も欲しかったですし。決勝ではスピード1位、ボルダリング4位、リード1位という成績で優勝でき、また(2位だった)弟の明智とユース時代を通じてもおそらく初めて公式戦の決勝で競い合うことができたので、それも楽しかったですね」

本格的にコンバインドに取り組むようになって感じたことは?

「ボルダリングで圧倒的な強さを見せつけるっていうのは、あらためてすごく難しいことだと思っています。3種目の中で最も不確定要素が多い種目であり、大会によって何が起こるか一番わからないですから。今の僕の場合、まずリードとスピードを安定させること、その上でボルダリングでは自分の持ち味を生かしていきたいというふうに考えています」

必要なのは勝ちきる力、すべてを懸けて八王子へ

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<世界選手権2018 写真:窪田美和子/アフロ>
CJC優勝はありましたけれど、今年のジャパンカップを含め、最近は"優勝まであと一歩"という大会が続いている印象があります。ご自身ではどうでしょう?

「そうですね。自分の中でも『優勝できる力はあるのに優勝できない』というイメージがありました。そこは改善しなくてはと、まさに今も考えています」

どんなに調子が良くても、本番でリズムが狂ってしまうことがある?

「あります。それに、特にボルダリングは出場順によっても左右されるところがある。どの順番で出ても変わらぬメンタルで最大限のパフォーマンスを発揮できるように......そこが課題ですね」

今季の課題としては、リードの強化も挙げられていました。

「リードの上位勢とは単純に持久力の差が大きいので、そこはコツコツやっていかなきゃなと。加えて、大会を見ているとギリギリの状態での発想というか、リードの壁の中で生き残る技というか、そういうものをトップ選手はたくさん持っているので、そこも勉強していきたいです」

そのトップ選手というのは? 具体的にはどんな点を参考に?

「ヤコブ(・シューベルト)、アダム(・オンドラ)、ドメン(・スコフィッチ)の登りはよく見ています。ヤコブはパッと見でうまい印象はないんですけど、パンプしてきた時の足技だったり体の位置だったりがすごく巧み。自分だったらグイッと手を出して落ちちゃうところで、1回耐えたりとか、ちょっと戻って立て直したりとか。そういう部分が自分はまだまだなんです」

強化したいという持久力は、クライミングにおいてはどのようなトレーニングで付けるものなのですか?

「これは本当に長く登るしかないですね。しかも自分の感覚として、持久力って落ちやすいものなんです。ガーッと集中してトレーニングしたとしても、その後あいだを空けちゃうと感覚も全然変わってきてしまう。だから、少しずつでも継続してやっていくことが重要です」

スピードに関してもお聞きします。スタート時に一部ホールドを飛ばす"智亜スキップ"がスタンダードになってきましたよね。

「ボルダラーの自分が出したムーブに名前が付いたのは嬉しいですね。ただ、パフォーマンス全体に関していうと最高タイムを伸ばせていない。以前に練習で6秒4〜5くらいを出してから更新できていないので、安定感を出すための練習をしつつも、底上げしていく必要があります。8割の力で6秒5程度を出せるようになったら圧倒的に有利になるので、そのくらいの状態までは持っていきたいですね」

今年は8月に八王子で世界選手権が行われます。

「日本で開催されることは自分にとって大きなプラスです。普段から応援してくれる人たちが現地に来てくれることで、八王子の大会ではいつもすごく力になっています。その力が今回もまた出せるんじゃないかなって。とにかく楽しみですね」

もっと伝えたい、このスポーツの魅力

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TEAM auも発足3年目。昨年からは明智選手も加わりましたが、最近の弟をどう見ていますか?

「勝負強いなと思いますね。優勝できそうっていう状況でしっかり決めていくってイメージが明智にはある。そこは"コンペティター"だなって」

ここ1、2年と比べても進化している?

「だいぶ伸びてきていると思います。あと、明智は気持ちの作り方が独特で、『勝つ、勝つ、勝つ』って感じで大会に臨むわけじゃないので、それが面白いなと横で見ています」

女性メンバー2人についてはどうでしょう?

「(野口)啓代さんは実力はもちろん、やっぱりメンタルが本当に強いなって。トレーニングも本当に好きでいつも追い込んでいるので、そこは真似していかなきゃなと思っています」

伊藤選手は?

「ふたばちゃんもとにかく勝負強い。普段はそこまで強く見えないんですけど、大会では普段の何倍の力を出してるんだろう!?と思うほどで」

その点は楢﨑選手からしても驚異的なのですね。

「本番で実力を発揮する能力は、本当に凄いです」

最近は様々なイベントなどに出演されて、他競技のアスリートとお会いする機会も多いことと思われます。スポーツクライミングを代表する選手として、そうした活動をしたり、注目されたりする現状をどう感じていますか?

「僕が会ったトップアスリートはみなさん優しかったです。縁あって会うことになった(格闘家の)那須川天心選手も普段はめっちゃ普通でしたよ(笑)。僕の中ではスポーツクライミングをさらにメジャーにしたい、いろんな人に見てほしいという気持ちが強いですね。実際に自分がやっていてこのスポーツが一番面白いと思っているんで、それをもっともっと広めていきたいんです」

2019年、今後の目標を教えてください。

「一番は世界選手権。優勝を決めれば次のステージへと繋がっていくので、そこを目指して頑張っていきます。今年のW杯は自分の実力を確認する場として、8月の世界選手権にしっかりピークを持っていく。そこがブレると去年みたいになっちゃいますから。経験から学ぶことは多いです」

最後に、ファンのみなさんへのメッセージをお願いします。

「今は3種目に取り組んでいて、まだまだ、どんどん強くなっていきたいと思っています。自分の進化していく姿を楽しみに見ていてください!」

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※このインタビューは2019年2月16日に収録されました。

インタビュー・文:CLIMBERS編集部
写真:永峰拓也
撮影協力:B-PUMP 荻窪店

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