楢﨑 明智インタビュー

芽生えたアスリートの自覚「明智スタイル」を見せたい

昨年のボルダリングジャパンカップ、楢﨑明智は競技直前の負傷で欠場を強いられ、W杯への出場権を逃すことになった。しかし、怪我を通して自らの体と向き合った日々は、復帰後のシーズン後半戦で見せた活躍の原動力になったという。アスリートとして成長した若武者は20歳を迎える2019年、兄とともに世界の頂点を目指す。

入らなかった勝負へのスイッチ

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<BJC2019 写真:JMSCA/アフロ>
新シーズンが始まりました。まずは、10位という結果だったスピードジャパンカップ(SJC)から振り返ってもらえますか?

「課題が多い大会でしたね。自分にはまだ対戦相手に合わせられるほどの実力がないんだと感じました。決勝トーナメント1回戦の相手選手の持ちタイムがそこまで速くなかったので、ミスしないムーブで合わせにいったら負けてしまいました。2回戦に進めば(優勝した池田)雄大君と当たるのがわかっていたことで、先を見すぎて手前でコケたみたいな感じですね」

スピードのムーブを変えたと伺いました。

「変えたんですが、元に戻そうかなと思っています。両方のムーブを練習しているんですが、どっちが良いのかまだわかりません。"智亜スキップ"(兄・智亜選手が考案したムーブ)も練習だとうまくいくんですけど、本番だとまだ精度が悪くてリスクが高い。いろいろ試しているところですね」

ボルダリングジャパンカップ(BJC)は8位でしたが、この大会については?

「けっこういい感覚でした。今まではみんなができない課題を僕だけ登れることはあっても、みんなができる課題のゾーンを獲れずに差が開くという展開が多かったんです。でも、今回のBJCではすべてゾーンを獲ることができましたし、満遍なく対応できるようになってきたと感じています。ただ、決め切れずに決勝には残ることができませんでした」

準決勝では完登なしに終わりました。

「3課題目は『絶対いける』と思っていたんですが、ムーブのひらめきが遅かった。そういう意味では試合勘が足りなかったと感じています。調子が良い時ってムーブが勝手に出てくる。導かれる感じがあるんです」

自然と体が動くような感じでしょうか?

「光が見えるというわけではないんですが、道筋が見える。『あ、いけるかも』ってなるんです。調子が悪い時はどうしてもセッターが考えた当たり前のムーブしか頭に浮かばなくて、それを壊すような発想のムーブは頭に入ってこないんです」

手首に故障を抱えていましたが、その影響は?

「BJCの頃が一番状況が悪かったですね。ただ、あとからだいぶ反省をしました。手首の調子が悪いとはいえ、大会に挑む人間の気持ちとしては緩すぎました」

緩すぎたとは?

「BJCの結果で今シーズンのW杯に出られるかどうかが決まるので、出場する選手は命懸けです。僕は昨年の成績やオリンピック強化選手に入っている兼ね合いで、W杯出場への条件がそこまで厳しくない。他の選手が全力で挑んでいる中で、どこかで『準決勝に残れればいいや』、『怪我を悪化させないでおこう』みたいな心持ちでいました。そういう弱さがBJCでもSJCでも出たんだと思います。スイッチが入り切っていなかった。気持ちを入れ替えなくてはいけません」

アジア選手権で学んだメンタルの大切さ

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<世界選手権2018 写真:窪田美和子/アフロ>
昨年はBJC競技直前の怪我により、日本代表としてW杯に参戦できませんでした。

「ただ僕自身としては、すごく成長できた1年だと感じています。怪我をしたことで、体の構造や栄養面についてなどに関心が高まりました。自分の体と向き合えるようになったし、少しは『アスリート』になれたんじゃないかと思っています。去年はW杯に出場できなかった分、出場できる大会は全部優勝するつもりでした」

世界選手権ではリードで4位に入りました。

「それ自体は良かったのですが、その後のボルダリングが......。予選でなかなか酷い順位で落ちましたし、難しかったですね。最初のリードで燃え尽きてしまった感があって、その後は滞在しているのも辛かったです」

何が辛かったのでしょうか?

「結果だけではなく、体調も優れなかったんです。ウイルスに感染して膝が腫れてしまい、スピードの時は膝を上げるのも痛くてしんどかったです。ドーピング検査に引っかからないような抗生物質の薬をもらうなどして、何とか乗り切ったんですが。膝だけでなくて体調も若干崩して、ボルダリングで予選落ちしたあたりから一気にもう......。リードが良かったので、『ボルダーもいったろう』って思っていたらバツンと止められた感じでした」

しかしその後、11月のアジア選手権ではボルダリング、コンバインドの2種目で優勝を果たしましたね。

「両種目で1位を獲れたのはすごく嬉しいですね。スピードでも6秒台を出せましたし、自信がつきました」

結果を出せた要因は何だったと思いますか?

「みんなが疲れていたというのもありますね。僕だけ疲れていなかったわけではないんですけど、気持ち的にまだいけるなという感覚があって。もちろん体は疲れていましたが、メンタルが充実していた。それがたぶん勝因だったのではと思います」

その感覚はなぜ持てたのでしょう?

「体調を崩したこともあって、世界選手権が本当にしんどかった。アジア選手権では体調も良かったですし、事前にたくさん登ることもできて気持ち的に余裕があったんだと思います」

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ご自身では一番の得意種目は何だと思っていますか?

「それがわからないんですよね。ただ、ボルダリングならば課題によってはワンチャンスあると思っています」

昨年から本格的にコンバインドに取り組むようになりました。

「やっぱり難しいですね。体力はもちろんですが、何をやるにしても全部の底上げが必要です。足りない部分があると、コンバインドでは上を目指すことは無理なので」

重点的に強化しているのは?

「スピードの強化はかなり力を入れています。(第1種目である)スピードで成功したら勢いに乗れるという意味でも重要ですよ。あと、世界のトップ選手と比べたらリードが圧倒的に弱いので、今後の課題です」

8月には日本で初開催となる世界選手権があります。

「とても嬉しいですけど、難しそうですよね」

それは自国開催だから?

「自国開催は緊張するし、僕は日本開催のW杯も得意じゃないイメージがあるんです。予選がすごく苦手で。でも、その時までに自分に自信がついて成長できていれば、応援は凄い力になるんだろうなと感じますね」

自信がないと声援は力にならない?

「自分に自信がない時の声援って、逆にキツい時もあるんです。できそうにないのに応援される。そうなってくると焦ってきますし、難しいですよね。その時に自分にゆとりがあって、この課題は落ちてもいいから最後まで登ろうと前向きに考えながら大会を進められたら、応援はすごい力になると思います」

「明智スタイル」をみんなに見せたい

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TEAM auに加入して1年が経ちましたね。

「みんな仲が良いですよ。特に(藤井)快君とは、TEAM auに入ってから前よりも仲良くなった感じがします。それまでは大人の強い選手で、憧れの存在みたいな。今でもそれは変わりませんが、距離感が近くなったと思います」

兄の智亜選手とはいかがですか?

「以前と比べてクライミング以外のことについてもよく話すようになりました。栄養面などは昔は興味がなかったんですけど、最近よく話しますね」

今年20歳になりますが、20歳になったらやってみたいことは?

「ないですよね(笑)。何かありますか? お酒もタバコも興味ないですし」

じゃあ、今まで通り?

「強いて言えば、『俺ハタチだし』って言えることですかね(笑)。ちょっと大人の仲間入りした感覚はありますよね」

あらためて、今シーズンの目標を教えてください。

「コンバインドジャパンカップ(5月)で優勝したいです。そこで結果を出さないと世界選手権に行けないので」

世界選手権に向けては?

「コンバインドにターゲットを絞った時には、大会の日程が長いので、どういったゲーム展開をするかというのをちゃんと考えることが大事です。ボルダリングとリードの単種目で決勝まで残ると、コンバインドでは相当疲労が溜まる。それにどう対応するのか、今から智君(兄・智亜選手)と相談しています。疲労の抜き方など、計画を練っていかなくてはと感じています。あとは目標としてもう一つ、W杯のボルダリング単種目とリード単種目の表彰台に乗りたいです」

最後に、ファンのみなさんへのメッセージをお願いします。

「今年は『明智スタイル』ですかね(笑)」

明智スタイル?

「他の選手がしないような登りがしたいですよね。課題を壊すというか、みんなを楽しませるクライミング。もちろん勝つことがメインですけど、もしかしたら時々『明智スタイル』が見せられるかもしれないです。でも、明智スタイルって書くと恥ずかしいですよね?」

書きたいんですけど、ダメですか?

「いやいいですよ(笑)。ただ『智亜スタイル』をめっちゃ真似してるじゃないですか(笑)」

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※このインタビューは2019年2月16日に収録されました。

インタビュー・文:CLIMBERS編集部
写真:永峰拓也
撮影協力:B-PUMP 荻窪店

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