国際ルートセッターが教えるオブザベーションの極意 【後編】

クライミングの上達に重要な「オブザベーション」について、日本を代表する国際ルートセッター、平松幸祐氏が語るインタビューの【後編】。今回は実践編として、質の高い"次の一手"に繋がるオブザベーションのコツを、セッターならではの視点から解説します。参考例に挙げるのは、平松氏がオーナーを務めるジム「FLAT BOULDERING」(山形県・山形市)に設けられた課題です。

ボルダリングはとにかく早く「答え」を見つけることが重要です。そのためには、少ないトライ数で正解ムーブへと感覚を近づけていく必要があります。ただ、セッター側も1回では登れないように、課題に工夫を施しています。多くの手数を重ねてしまうと時間内に登りきれないリスクが生じてしまうので、一手でどれだけ情報を得て整理し、次の一手に繋げられるかがコンペでは求められます。

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ポイント①:案を絞りすぎない

ボルダリングは不確定な要素が生じることが多々あるので、そこへ柔軟に対応できる能力が要求されます。例えば、一つのムーブに対してA案がダメならB案というように、あらかじめ自分の中で複数のムーブのイメージを持っておくことが必要です。もしA案しか頭にない場合、そのA案で攻め続けて結局登れなかったというケースはよく見られます。一つのムーブを決め打ちで登り続けるというのは非常にリスクがあります。また、登ってみなければわからないという課題も少なくないので、常に複数のアイディアを持ちながら一つひとつのムーブに対応するように意識しましょう。

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ポイント②:静的か、動的か

オブザベーションでは、動的に勢いをつけて動くのか、静的にコントロールして動くのかをムーブごとにイメージすることも重要です。セッターが要求するものの一つに「我慢をする」というものがあります。次のホールドが持ちづらい時、動的に勢いよく取りにいって剥がれてしまう(落ちてしまう)ことがありますよね。そういう場合には、ぐっと我慢をしながら、引きつけて取りにいく選択が必要なわけです。逆に次のホールドが大きくて取りやすい場合は、思い切って飛びついてもリスクが低いケースが多いです(写真)。次のホールドによって動的に取るのか、静的に取るのか、アプローチの仕方をイメージすることは大事なポイントですね。

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静的に動くと次のホールドが取りづらいので(左)、この場合はダイナミックに取りにいく(右)

ポイント③:痕跡を探る

ホールドにある「痕跡」を探ることも、課題攻略の大きなヒントになります。前の人が登った後にはチョークの跡やシューズによる汚れが残っているもの。その課題に一番に登るという場合も、ルートセットの際にセッターが試登しているのでどこかに痕跡があるはずです。痕跡を探ることで、前の人の手や足の位置がわかり、それを頼りにして正解ムーブに早く近づくことができます。痕跡は正面から見るだけではわからない場合も多いので、様々な角度から観察するようにしましょう(写真)。

また、次のホールドがハリボテや壁の角度が変わった裏側に付いていて見づらい場合、セッターは次のホールドの位置をわかりやすくするためにチョークで線を引くマーキングを行うのですが、それがないケースもあります。そのような時は、オブザベーションの際に様々な角度から注視し、見づらいホールドの位置を予測できるように、手前にあるハリボテのビスの穴などを目印化することも大切です。セッターは見づらさで落としにかかっている場合もあるので、見づらいホールドの手前にわかりやすい目印を作っておくというのは覚えておきたいテクニックの一つですね。

そして、忘れがちなのがブラッシング。特に足場です。前の人がたくさん乗っていると、そのソールの跡が残ってホールドは滑りやすくなっています。意外に足のブラッシングをやらない選手も多いんですよね。痕跡を辿ったら、スタートする前にちゃんとブラッシングすることも重要です。

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ムーブ選択で気をつけたいこと

最近の傾向として、ジムで登る上級者の方々を見ていても、連続した動きであるコーディネーション系ムーブに引っ張られすぎてしまうことが多いように感じます。例えば、次の一手を全力で止めないで、その次に移動する方向へと意識がいきすぎて落下するケースですね。コーディネーション系ムーブは、次のホールドを掴むために一つ足を使って経由することで成立するような、セッター側も意図して作った課題に求められるムーブです。しかしそうではない場合、つまり止めにいくのが正解で、余計なことをしなければ止められるはずのポイントでも、コーディネーションに走ってしまう人がいます。特に最初に止められなかった時、一手目で取れなかったという時に、諦めてコーディネーションに逃げ道を探ってしまうことが多いと思います。すぐにコーディネーションに引っ張られるのではなく、一つひとつどういった課題なのかをしっかりと見極める意識が大切ですね。

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  • 平松幸祐
  • 平松幸祐(ひらまつ・こうすけ)
    国内外で活躍中の日本を代表するルートセッターの一人。大学1年の時に始めたクライミングにのめり込み、通っていたクライミングジムに勤務。その後、当時は若手が少なかったルートセッターの道を志し、2009年に国際資格を取得した。2015年には山形に自身のジム「FLAT BOULDERING」をオープン。海外を参考にした空間づくりや課題の面白さが話題を呼んで一躍、全国的な人気ジムとなった。
    FLAT BOULDERING http://flatbouldering.com/

取材・文:篠幸彦
写真:渡辺然
撮影協力:FLAT BOULDERING

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