伊東秀和コーチが教える初めてのボルダリングコンペ対策 【後編】

コンペ(大会)に挑む心構えやメリットをお伝えした【前編】に続いて、【後編】は実践編として、コンペで役立つテクニックを身につけるためのトレーニング方法を解説します。指南役は前回に続いて、TEAM auの野口啓代、野中生萌、楢﨑智亜、楢﨑明智をはじめ、多くの日本代表選手を指導してきた伊東秀和コーチです。

初めてのコンペ挑戦に際し、意識してトレーニングしたいポイントが2つあります。1つは「スラブ」。スラブとは、正対した時に奥に倒れている90度未満の傾斜の緩い壁のことを言います。ビギナークラスではスラブの課題がよく出てきます。脚力とバランスをトレーニングで養い、足場の悪いスラブに対応できるようにしましょう。

そしてもう1つが「ランジ」です。最近では草コンペでも大胆に飛びついてホールドを取りにいくランジ課題が出てくることも珍しくありません。ランジにも様々な種類がありますが、ここではベーシックなランジのコツを教えていきます。また最後には、コンペの直前に意識することや練習法、本番で注意することなども紹介します。

スラブ攻略トレーニング
その① 「ノーハンドで登る」

コンペに出てくるスラブはだいたい85度くらいです。通常はその壁を両手で登っていくと思いますが、コンペ課題では手が使えるホールドが少なくなります。場合によってはまったくないこともあります。そうした課題に対応できるように、手を使わずに脚力とバランスで高度を上げる練習が必要です。ジムにある既存の課題を利用して、自分でそうしたシチュエーションを想定しながら手を使わずに登る練習をしましょう。

ノーハンドで登る時のポイントは、綱渡りのように片足で全体重を支えてバランスを取ることです。片足でバランスが取れるようになればスラブはかなり安定します。フットホールドの上に腰を乗せるイメージで、片足でバランスを取り、そこから片足スクワットをするように高度を上げていきます。立ち上がる時は、完全に膝が伸び切るまで立ち上がるようにしましょう。

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スラブ攻略トレーニング
その② 「片手で登る」

コンペのスラブには、ホールドも悪くなってノーハンドで登るのが難しい課題もあります。そうしたスラブに対応するために、片手を使って横に移動するムーブも練習しておきましょう。ただ、ジムの壁を使って自分でそうした課題をシミュレートするのは難しいので、既存の課題を片手で登るのがおすすめです。コンペでは左右どちらか一方に連続して移動する課題がよくあるので、まずはどちらかの手のみに限定して登るようにします。

登る時のポイントは、右手を使って登る場合、片足を上げた状態から右手で反動をつけて引き、右足でホールドに乗って右手で止めるという順番を意識します。右手ができたら左手に限定してやり、慣れてきたら3手でいける課題であれば2手というように手数を減らしてトライしましょう。

ノーハンドと片手に共通するポイントとして、最初は自分の限界の級から1〜2つ下げた級を選ぶこと。5級が限界の場合は7級の課題といった具合に、まずは簡単な級の課題で練習するのが良いでしょう。慣れてきたら級を上げて、より悪いホールドを選んでやるようにします。コンペ前はスラブを練習して、足先や手先の感度を上げて、悪いホールドの感覚に慣れるようにしておきましょう。

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ランジの基本
「スピード感のある動きで爆発力を」

ビギナークラスのコンペでも、飛び出すのが不安になる距離感でランジを使って飛びつくような課題が多く出てきます。コンペに向けた練習ではそうした距離感のホールドに慣れておくことも大切です。

ベーシックなランジの動きは、スタートポジションから一度ホールドを掴んだまま目標のホールドに近づき、勢いよく沈んでその反動を利用しながら飛びつきます。この一連の流れのポイントは、大きく近づいて背中の筋肉を伸ばすように沈み、反動を生み出すこと。ランジはこの上下の動きから全身のバネの力を利用して、どう爆発力をつけるかが大切になります。

その爆発力を生み出すためには、スピード感のある上下の素早い動きが重要です。ゆっくりした動きからでは全身のバネの反動は生まれません。また、何度も上下の動きを繰り返して反動をつける場合は、最初は小さい動きで、徐々に動きを大きくしながら最後の飛び出す時に一番大きな動きで反動をつけるようにしましょう。

蹴り出す時はフットホールドと取りたいホールドの直線上に腰を入れて、しっかりとフットホールドに乗った状態から蹴り出すように意識してください。最近ではランジ課題にもいろいろな種類がありますが、ビギナークラスのコンペではこの基本のランジを覚えることが大切です。

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コンペ直前のトレーニング
その① 「直前は登り過ぎない!」

コンペまで1週間を切ったら、まずは登り過ぎないことを心がけましょう。クライミングは指や関節を酷使するので回復に時間がかかります。ジムに通う頻度が多い人は少し抑えたり(週4日通う人は2日にするなど)、登る時間を短く調整したり、普段より登る量を減らすことを意識してください。ただ、登る量を減らす分、課題の強度はコンペを意識して上げて、トライのあいだのインターバルやウォーミングアップ、リカバリーの時間は増やすようにしましょう。

コンペ前は気合いが入り過ぎてつい練習し過ぎてしまう人がたくさんいますが、疲労を溜めずに臨むことが大事。当日から中2日は空けて本番を迎えるのが理想的です。当日、受付をしてからすぐにコンペが始まる場合は、前日にジムで軽めに体を動かしておくのがいいでしょう。

コンペ直前のトレーニング
その② 「本番に向けたシミュレーションを」

コンペ直前に本番をシミュレートするおすすめの練習法を紹介します。セッション方式では制限時間1時間〜1時間半のあいだに、8〜10課題を登ることになります。それを想定して5級が限界の人の場合、5級を4課題、6級を4課題、計8課題を1課題につき5トライの制限を設けて、1時間のあいだにどれだけ完登できるかをやってみましょう。

課題を選ぶ時にスラブ、緩傾斜、中間傾斜、強傾斜と傾斜の違う4課題を選ぶとより本番を意識したトレーニングになります。また、模擬コンペとしてやるので、やったことのない新鮮な課題で行う必要があります。行ったことのないジムでやるか、あるいは行ったことがあってもその時とは課題が切り替えられたジムでやるのがいいでしょう。コンペ1週間前に一度はやっておくことをおすすめします。

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コンペはやさしい課題から登るのが鉄則!

コンペ本番はやさしい課題を先に登るようにしましょう。セッション方式の課題の配分は10課題の場合、3課題くらいはやさしい課題、4課題くらいはそのカテゴリーに則した課題、残りの3課題くらいは難しい課題になります。まずは多くの人が完登するやさしい課題をひと通り登り、落ち着いた状態で難しい課題を集中して登るというのは、リザルト的にもメンタル的にも大事なポイントになります。攻略できたはずの課題を最後まで残してしまい、終了間際に行列になって時間切れで落とせないというのはよくあるパターンです。もしパッと見た時にやさしい課題がどれかわからない場合は、周りの人を見てよく完登が出ているものを選ぶようにしましょう。

前後編を通じて、コンペとはどんなものか、ご理解いただけたでしょうか。自分の課題を発見できる本番はもちろん、それに臨むまでの過程や意識の変化を含め、すべてがボルダリングのレベルアップに繋がるはずです。ぜひチャレンジしてみてください!

  • 伊東秀和
  • 伊東秀和(いとう・ひでかず)
    1976年、千葉県生まれ。2002年、03年のジャパンツアー年間王者。日本代表として11年まで世界選手権5大会に連続出場(リード種目)。現在は『伊東秀和クライミングスクール』を主宰し、多くの日本代表選手からユース世代、一般の方まで幅広く指導している。『スカイA』スポーツクライミング番組の解説でもおなじみ。
    公式インスタグラム https://www.instagram.com/hide9a2016/

取材・文:篠幸彦
写真:窪田亮
撮影協力:PUMP2 KAWASAKI

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