世界選手権へ 22歳、エースの自覚/楢﨑智亜独占インタビュー

9月6日、オーストリア・インスブルックでIFSCクライミング世界選手権が幕を開ける。IFSC(国際スポーツクライミング連盟)が主催し、2年に1度開催されるこの戦いは、スポーツクライミング界で最も権威ある大会だ。同じくIFSCが主催するワールドカップ(W杯)が種目ごとに毎年7戦程度行われ、年間王者を争うシリーズ戦なのに対して、世界選手権は一発勝負。普段はW杯に出場せず自然の岩場で活躍する有力選手も、この大会にはこぞって出場する。まさに世界最強のクライマーを決める舞台である。

2年前の2016年パリ大会、弱冠二十歳で史上初の日本人王者に輝いたのがTEAM au所属の楢﨑智亜。日本代表チームのエースとして、自身3度目の世界選手権に臨む楢﨑に意気込みを聞いた。

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パリ大会での優勝は、今までで一番嬉しかった

世界選手権への初出場は2014年のミュンヘン大会でした。18歳でしたが、当時のことは覚えていますか?

「2014年は初めてボルダリングW杯に出場した年でした。自分としては世界の舞台でどこまで登れるのか知りたいという気持ちが強かったと思います。結果的に世界選手権では10位に入ることができて、自信に繋がりました。あの大会にはキリアン(・フィッシュフーバー※)も出場していて、11位だった彼を上回ることができたのも印象に残っていますね。ここから成長していけば、自分もトップレベルになれるかもしれないと感じたことを覚えています」

※編注:オーストリア出身のクライマー。ボルダリングW杯で年間優勝5回の実績を持つトップクライマー。

日本人初優勝を果たした2016年のパリ大会はいかがですか?

「あらためて振り返ってみると、2016年はいろいろな流れが自分に来ていた。正直なところ、当時世界で一番強かったかと言われるとわからないところはあります。課題の傾向もそうだし、ボルダリングは連戦なので一度波に乗れると強い。あと、もちろん運も。そういったものが2016年は自分とマッチしていたと思います。直前のボルダリングW杯最終戦(ミュンヘン大会)で初めて年間優勝を決めたこともあって、気持ち的にはちょっと燃え尽きてしまった部分もありましたが、途中から切り替えて、集中して競技に臨めるようになりました」

以前お話を伺った際には、世界選手権での優勝が一番嬉しかったと言っていました。その気持ちは今でも変わりませんか?

「はい。これまでの競技人生で一番嬉しかった瞬間ですね。日本人初というのも誇りに思いますし、世界選手権はスター選手がそろっているので、そういった中でトップを取れたことは、プロとしてやっていく上で自信になりました」

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楢﨑選手は今年、インスブルックで合宿を行っていますよね。

「2回行ってます。2月に2週間、7月に1週間ですね」

それはどういった目的があったのでしょうか?

「現地でトレーニングをしたインスブルック・クライミングセンターは世界選手権のボルダリングとリードの予選会場で、1つの施設で3種目を練習できるんです。初めは3種目を同時にやるのが本当にキツくて。コンバインドの競技形式順でトレーニングをするんですが、スピードの後にボルダリングをやって、最後にリードも続けてやって......体がもたなかったですね。相当体力は付いたと思います。あと、インスブルックにはヤコブ(・シューベルト※)もいて、彼と一緒に練習できるのもよかったですね。ヤコブ以外にもリードの強い選手がたくさんいて、彼らの練習を見ながら何が違うのかなと観察してました。こっそりと(笑)」

※編注:オーストリア出身のクライマー。今シーズンのリードW杯で年間ランキング首位(8月末時点)に立っている。

インスブルックはどんな街ですか?

「街並みはすごく綺麗で空気も気持ちよくて、過ごしやすいですね。ごはんも含めて割となんでもある。イタリアンが美味しいです。街自体がそれほど大きくないので、街を歩いていれば有名クライマーにバンバン会えますね」

すべては、世界選手権で優勝するために――

今シーズンのこれまでを振り返ってください。まずはボルダリングから。

「調子は悪くないです。冬のトレーニングが上手くいって、自分が取り組んできたこととコンペで試されていることが合致している感じがしますね。ただ、中国ラウンド(※)では気持ちが緩んでいた部分があったと思います。W杯では他の選手が普段以上の力を出してやっている中で、少しでも気が緩んでいるとすぐに逆転されてしまう。それほど今の男子は拮抗しているので、そこは反省しています」

※編注:5月に行われたボルダリングW杯の第3戦重慶大会で11位、第4戦泰安大会で8位と、ともに決勝進出を逃した。

リードはいかがでしょうか?

「7月の初戦(ヴィラール大会)でまさか表彰台(3位)に立てるとは思っていませんでした。今のリードの目標はヤコブに勝つことです。やっぱり見ていてもヤコブの登りが一番かっこいいし、もし超えることができたら大きな自信になるはず。ただ、まだ力の差はすごく感じていますし、世界選手権でチャンスがあるとすれば、ヤコブが失敗して、自分の得意なタイプの課題が出た時しかないと思います。だけど、それで勝ってもつまらないですよね。目標としている選手には、お互い力を出し切った形で勝ちたい。この目標達成は来年までかかると思います」

スピードに関しては?

「代表チームでの練習も増えてきて、自分のムーブも固まってきましたね。8月上旬の練習会では6.75秒で自己記録を更新することができました。6秒台はコンスタントに出るようになってきたので、コンバインドで戦う分にはいい感じに仕上がってきているかなと」

世界選手権での目標タイムはありますか?

「6.5秒。スピードに取り組み始めてから目指しているタイムでもあります。正直なところ強気に言っていた部分もありましたけど、現実味を帯びてきている。新しいムーブもこの前見つけたので、それがモノになればいけると思います」

世界選手権での出場種目の予定は?

「全部ですね。スピード、ボルダリング、リードの単種目とコンバインドに出場します」

それはなかなかハードですね。

「まだ確定していませんが、その予定です」

楢﨑選手にとって世界選手権とはどんな大会ですか?

「2年に1回だし、W杯とは重みが違いますね。シリーズ戦のW杯と違って一発勝負だから、実力はもちろん、そのチャンスをモノにできる運も必要。先ほど話したキリアンや平山(ユージ)さん、野口(啓代)選手も優勝できていないわけだから、やっぱり難しい大会なんですよね。今年は世界選手権での優勝に照準を合わせてやってきました。W杯も世界選手権から逆算して、大会ごとに成長できるポイントを探しながら取り組んできました」

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日本のエースとして。みんなに勇気を与えたい

あらためて、世界選手権での目標を教えてください。

「ボルダリングとコンバインドで優勝。リードは表彰台に立てたらラッキーという感じですが、まずは自分の実力をしっかりと出すこと。決勝には行きたいですね。スピードは順位の予想がつかない。シャモニーのW杯で6秒台を出しましたが、結果は31位でした。ただ、コンバインドに出場している選手の中では一番速いタイムを出したいですね」

ボルダリングは二連覇が懸かっています。

「実は二連覇についてはそこまで意識はしていません。でも自分の得意種目なので、単純に勝ちたい。コンバインドもオリンピックフォーマットになってからすごく意識して練習しています。このタイミングで勝つことでいい流れが作れるはずだし、モチベーションも維持できる。この2つは獲りにいきたいですね」

3度目の世界選手権になります。18歳で初出場、20歳で日本人初優勝。22歳で迎える今大会は日本代表チームの中心選手です。ご自身の中に"エースの自覚"というものはありすか?

「あります。やはりこれだけ日本チームが活躍している中でも、自分が一番安定して成績を残せていますし、コンバインドも得意だという自信があります。僕がしっかり結果を出し続けることで、周りに刺激を与えていきたいとは思っています」

2年前にはそういった気持ちはありました?

「まったくないですね。勢いで登っていた感じ。ただただ勝った後の景色を見たい一心でした」

2年前と比べてメンタル面での成長は感じますか?

「それはもう全然違います。大人と子どもくらい違う(笑)。壁の中での落ち着きだったり、冷静さ。普段から自分のことをしっかり分析して理解できるようになりました。あと、人ともきちんと話せるようになりましたね(笑)。これはかなり大きくて、ちゃんとコミュニケーションが取れるようになったことで視野が広がったと思います」

ご自身の結果以外で、日本代表チームのためにできることはありますか?

「自分より年下がどんどん増えてきています。みんなコンペ前は不安だって話をしていますが、そういった時に、僕が自信満々で壁に挑む姿勢を見せられれば、若い選手たちにも勇気を与えられるのかなと思っています」

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最後に、世界選手権に挑む楢﨑選手を応援しているファンに向けてメッセージをお願いします。

「W杯ミュンヘン大会、アジア競技大会、世界選手権と連戦なので、コンディションは厳しい状況が予想されます。世界選手権自体も競技日程が長くて、特に最後のコンバインドはフィジカル的にも、メンタル的にも相当辛くなってくると思います。そういう時に、みなさんの応援がすごく力になるし、頑張りたいという気持ちが込み上げてきます。応援よろしくお願いします」

9月6日に開幕する世界選手権には、日本から男女合わせて14名の選手が派遣される。男子ではTEAM au所属の楢﨑智亜に加えて、藤井快、楢﨑明智、女子では野口啓代、野中生萌が選出され、いずれもリード、ボルダリング、スピードの単種目とコンバインドの全4種目に出場予定だ。世界のトップクライマーが一堂に会する最高の舞台で、今回はどんなドラマが待っているのだろうか? TEAM au選手たちの躍動に期待したい。

IFSCクライミング世界選手権 競技スケジュール

9/6(木) 11:00~ リード予選【女子】 (6日18:00~)
9/7(金) 11:00~ リード予選【男子】 (7日18:00~)
9/8(土) 13:00~ リード準決勝【女子】 (8日20:00~)
19:00~ リード決勝【女子】 (9日02:00~)
9/9(日) 13:00~ リード準決勝【男子】 (9日20:00~)
19:00~ リード決勝【男子】 (10日02:00~)
9/11(火) 10:00~ ボルダリング予選【女子】 (11日17:00~)
17:00~ パラクライミング予選 (12日00:00~)
9/12(水) 10:00~ ボルダリング予選【男子】 (12日17:00~)
18:00~ パラクライミング準決勝 (13日01:00~)
9/13(木) 09:00~ スピード予選【女子】 (13日16:00~)
13:00~ スピード予選【男子】 (13日20:00~)
12:30~ パラクライミング決勝 (13日19:30~)
20:00~ スピード決勝【男女】 (14日03:00~)
9/14(金) 13:00~ ボルダリング準決勝【女子】 (14日20:00~)
17:45~ パラクライミング決勝 (15日00:45~)
19:00~ ボルダリング決勝【女子】 (15日02:00~)
9/15(土) 13:00~ ボルダリング準決勝【男子】 (15日20:00~)
19:00~ ボルダリング決勝【男子】 (16日02:00~)
9/16(日) 11:00~ コンバインド決勝【女子】 (16日18:00~)
14:30~ コンバインド決勝【男子】 (16日21:30~)

※カッコ内は日本時間

詳細は大会公式サイトをご確認ください
https://www.innsbruck2018.com/

※このインタビューは2018年8月8日に収録されました。

インタビュー・文:CLIMBERS編集部
写真:永峰拓也/Base Camp、AFP/アフロ
ヘアメイク:MAYUMI(KOOGEN)
撮影協力:Climb Park Base Camp

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