伊東秀和コーチが教えるキッズボルダリングのススメ 【前編】

最近はボルダリングを楽しむお子さんも増えてきました。「ウチの子にもやらせてみようかな?」と考えている方も多いかもしれません。今回はお子さんが健康的に楽しみながらボルダリングを続けていくために、保護者の方が知っておきたいポイントをご紹介します。解説役はTEAM auの野口啓代選手、野中生萌選手、楢﨑智亜選手、楢﨑明智選手をはじめ、多くの日本代表選手を指導してきた伊東秀和コーチです。

子どもたちにとってのボルダリングの魅力とは?

ボルダリングはジムの形態にもよりますが、小学生以上であれば参加できるところが多いです。ただし、ジムは大人と子どもが一緒の空間で登るので、安全面に気をつける必要があります。特に注意してほしいのはマットです。幼児や小学校低学年くらいの子どもたちはマットの上を走り回ったり、でんぐり返しをしたり、ともすると遊び場になってしまいます。しかし、マットはそこが壁の上から人が落ちてくる危険なエリアだから敷いてあるということを覚えておいてください。保護者は子どもから決して目を離さず、周囲の安全に気を配ってください。これがお子さんと一緒にジムを利用する最低限のマナーになります。

子どもがボルダリングを始める魅力は3つあると思います。まず1つ目は体全体を使う全身運動なので、筋肉や体幹をバランスよく発達させることができます。2つ目はチャレンジ精神を養えること。登れなかった壁を登るためには何が必要かを考え、失敗を糧にチャレンジして登れたという成功体験を通して、子どもの心の成長を垣間見ることができるはずです。3つ目は脳の発達。ボルダリングは頭と手先を使うスポーツです。課題の攻略は、まるでパズルのように頭の中で一つひとつの動きを当てはめて自分が登れる動きを探ることです。そしてホールドは小さなものから大きいもの、指先で掴むものから手のひらで覆うように掴むものなど多種多様です。登りを考える思考と指先から入る刺激で脳の発達を促すことができます。

見守ることが大事。登れないことは悪いことじゃない

子どもをジムに通わせる際に、とても大切な保護者の心構えの一つが「見守ってあげること」です。最近ジムでよく見かける光景が、子どもが登れたときに喜んで、登れなかったときに残念がってしまう保護者の姿です。これは子どもがクライミングを楽しむことを妨げてしまう恐れがあるということを覚えておいてください。始めたばかりの子どもにとって登れたか、登れなかったかはあまり関係ありません。登れたら嬉しいし、登れなくても楽しいから何度でも登ります。それが子どもにとって楽しいクライミング体験です。しかし、子どもが全然気にしていないのに、保護者が登れなかったことを残念がって「もっと登らせてあげたい」「もっと登れるはず」となると、執拗にコントロールしようとしてしまいがちです。それが過剰になると、保護者は登れないとショックで落ち込み、ときには怒り、自分の感情を子どもにぶつけてしまいます。そうすると子どもは落ちる可能性の壁を登らなくなり、チャレンジしなくなってしまいます。それは子どもにとっても保護者にとっても残念なことです。

智亜と生萌は落ちることを気にしなかった

私がスクールの子どもたちを指導する際に気をつけていることは、体と心の動きを注意深く観察して、失敗したときに「次はこうしたらいけるかも」という最低限のポイントを伝えて、正しい方向へ意識を向けてあげることです。レッスン中に落ちた子どもがいた場合、私は「うわー、惜しい!」と言って笑顔でいます。私が笑っていれば子どもたちは「落ちてもいいんだ」と思うはずです。もしそこで私が腕を組んで怖い顔をしていたら、きっと子どもたちは思い切りチャレンジができなくなってしまうと思います。今では日本を代表するトップクライマーとなった楢﨑智亜や野中生萌も落ちることを気にせず、のびのびと登る子どもでした。智亜は子どもの頃、とにかく登り方が雑で"ヘタクソ"と周囲から言われていました。確かにパッと見は荒っぽく、ベーシックな技術的観点からすると乱れた動きばかりで、他のスポーツであれば徹底的に直されていたかもしれません。でも彼はそんな周りの声を気にすることなく、ガンガン登る子でした。私もそれで良しとしてのびのびと登れるように指導してきました。そして彼らしい曲線で成長し、世界チャンピオンとなり、今では誰もが認めるダイナミックな「楢﨑智亜のスタイル」を確立しました。彼のように失敗してもすぐに切り替えて次の可能性に目を向け、ひたすら努力を続けられる人間は大きな成功を掴めるはずです。クライミングはそうしたチャレンジ精神に富んだ人間性を育む可能性を秘めたスポーツだと感じています。

世界チャンピオンを獲得したIFSCクライミング世界選手権パリ 2016 ボルダリング決勝

やり過ぎ注意!他のスポーツとの掛け合わせでもっと楽しく

楽しくボルダリングを続けるために注意することがあります。それはやり過ぎないことです。クライミングは指や肩まわりの腱や関節を使う特殊なスポーツです。成長期の子どもはまだ関節や骨が柔らかいので、やり過ぎてしまうと腱を痛めたり、疲労骨折になってしまったり、怪我のリスクが高くなります。慣れるまでは保護者がしっかりとコントロールして、怪我なくやらせてあげてください。また小学生のうちはボルダリングだけに特化するのではなく、他のスポーツと並行して取り組むことをお勧めします。今活躍しているトップ選手の多くが子ども時代に体操や陸上、水泳といった他のスポーツを経験しています。逆にメインで取り組むスポーツがある子どもが、ボルダリングをセカンドスポーツとして選ぶのもいいでしょう。何よりジムに来た時間が楽しくなければ、子どものモチベーションは続きません。保護者からの干渉が増え、楽しくない時間が増えると、クライミング自体も楽しくなくなってしまいます。子どもが何も気にせず、のびのびと楽しい時間を過ごすということを一番大切にしてもらいたいと思います。

今回紹介したポイントはもちろんすべてのお子さんに当てはまる訳ではありません。お子さんの個性に合わせて参考になりそうな部分を取り入れてもらえれば嬉しいです。後編では実際にボルダリングを始めたばかりのお子さんが陥りやすい間違いや役立つトレーニングのコツをご紹介します。

  • 伊東秀和
  • 伊東秀和(いとう・ひでかず)
    1976年、千葉県生まれ。2002年、03年のジャパンツアー年間王者。日本代表として11年まで世界選手権5大会に連続出場(リード種目)。現在は『伊東秀和クライミングスクール』を主宰し、多くの日本代表選手からユース世代、一般の方まで幅広く指導している。『スカイA』スポーツクライミング番組の解説でもおなじみ。
    公式インスタグラム https://www.instagram.com/hide9a2016/

2018年7月26日

取材・文/篠幸彦
写真/森口鉄郎
撮影協力/PUMP1 川口店、柿﨑咲羽(キッズモデル)

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