TEAM au 楢﨑明智が語る、「スピード」の魅力

4月29日、MORIPARK Outdoor Village(東京都・昭島市)にてSPEED STARS 2018が開催された。その名の通りスピードに特化したこのコンペティションは、国際スポーツクライミング連盟からの公認を受けた国際大会として実施され、TEAM auからは楢﨑明智、野口啓代、野中生萌の3名が出場した。

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日本ではまだまだ馴染みの薄いスピード種目は、ボルダリング、リードでは世界のトップレベルにある日本代表選手にとっても、競技力向上が課題となっている。そんななか「スピードは楽しい」と話すのが、日本スピードランキングで2位につける楢﨑選手だ。この大会でも予選で自己ベストの7秒37に迫る7秒42を記録し、日本人で唯一の決勝トーナメント進出を果たした18歳にスピードの魅力、そして奥深さを語ってもらった。

BJCでは悔しくて泣きました

2月のボルダリングジャパンカップ(BJC)は腰のヘルニアで欠場しましたが、今の状態は?

「今はもう完璧だと思います。ただ、気を抜いたら再発する可能性はあると言われているので、違和感があれば登らないようにしています」

アイソレーション(公平性を保つため、課題や他競技者の登り方を見ることができないように隔離された待機場所)に入ってからの競技直前のアクシデントということで、会場も騒然としました。当時の気持ちを振り返っていただけますか?

「腰の痛みよりも、出場できないことへの悔しさがありました。決勝まで行って智くん(兄・智亜)と戦うというイメージがあったので、それができなかったのが悔しかったですね。痛みもあったんですけど、悔しくて泣いたのは久しぶりでした。ちょっとですけど(笑)」

アイソレーションで智亜選手と会話はしましたか?

「すごく心配そうな顔で『大丈夫?』と何度も話しかけてくれました。競技が始まる直前で自分のことに集中してほしかったので、ありがたいんですけど申し訳なかったですね」

続くリード日本選手権も欠場となり、ワールドカップへの出場権獲得が厳しい状況になりました。今シーズンの参戦予定の大会は?

「海外では、今のところ世界ユース選手権(8月7~19日、カナダ)しか決まってないですね。出られる大会は一つひとつベストを尽くしてやりたいと思っています」

ボルダリングのシーズンが開幕して、ワールドカップ第2戦モスクワ大会では兄・智亜選手が2年ぶりの優勝を果たしました。

「見ました。凄いですよね、智くん。去年より伸び伸びしているというか、自由に登っていると思います。自分らしさが出ていますね」

智亜選手の他にも野中生萌選手や野口啓代選手など、TEAM auのメンバーが活躍しています。

「嬉しいですが、自分も続かなきゃいけないというプレッシャーでもありますね。TEAM auはもちろんですけど、日本代表選手は全員応援しているのでもっと活躍してもらいたいです。同じユース世代の土肥圭太選手とか、原田海選手にも決勝に残ってもらえるように期待しています」

スピードはやれば、やるだけ

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今日はスピードに特化した大会です。あらためてスピードの魅力を教えてください。

「やればやるほど結果がついてくるところですね。元世界記録保持者のダニエル・ボードゥイレフ選手(ウクライナ)は『速くなるのに秘策はない。一つひとつ地道にやっていくことしか速くなる道はない』と言っていました。練習をすればそのうち必ず結果がついてくるのがスピードの魅力だと思います。ボルダリングとリードも練習をすればもちろん強くなるんですけど、大会で結果がついてくるとは限らないですから。それは課題の傾向など、運の要素があるからです。スピードはタイムで結果が出るし、ボルダリングやリードとはまた違った練習ができるので楽しいですね」

スピードはタイムもありますが、隣の選手に勝つという側面もあります。タイム的に自分よりも速い選手と遅い選手では、どちらの方がやりやすいというのはありますか?

「僕は速い選手とやる方が得意ですね。自分よりも遅い選手と登ると『勝たなきゃいけない』という気持ちになって力み過ぎてあまり速度が出ないんです。でも自分より速い選手の場合、とにかく自分のベストを出して、相手がミスしてくれたら勝てるかもと、良い意味で開き直れるんですよね。逆に智くんは、自分より速い選手とやると『勝ちにいくから滑って落ちる』と言っていました。そこは選手の性格が出るところだと思います」

観客目線ではスピードのどこを見ると楽しめると思いますか?

「身長差のある選手が対戦する場合、一見すると背の高い人が有利だと思うんですけど、実際はムーブによって全然違います。それぞれのムーブの違いに注目すると面白いと思いますね。同じ選手でも予選と決勝で違うムーブだったりするので。あと単純に陸上の100m走の感覚で見ても面白いと思いますね」

スピードは屋外でも行われるなど競技環境がそれぞれですが、今日みたいに汗ばむようなコンデションはいかがですか?

「寒すぎるよりはいいと思います。寒いと体が動かないので。ただ、あまりにも暑すぎるとホールドが日光に当たって熱くなるんです。それは嫌ですね。以前にそういう環境で練習した時には、手が滑った際に摩擦とホールドの熱さで火傷したことがありました」

ボルダリング、リードと大きく違う点はどこだと思いますか?

「やることがすべて決まっていることだと思います。そこが一番違いますね。ボルダリングとリードは課題によって全然違うので、厳密には本番のための練習というのはできません。それとボルダリングとリードでは、僕のメンタリティとしては人と戦ってはいないんです。でもスピードは隣の選手を倒すというメンタリティになるところが大きく違います」

世界のトップ選手はムーブを3つは持っている

スピードのムーブで参考にしている選手はいますか?

「ダニエル先生ですね(笑)。始めたての頃は彼が世界記録を出した時の映像を見てずっと練習をしていました。そこからは自分の登りを見て改善しています。なのでムーブのベースはダニエル選手ですね」

なぜダニエル選手を参考にしようと思ったのですか?

「背が高いことです。一番最初のスピード練習はユースの練習会だったんですけど、みんなと同じムーブでやっていたら狭いパートが全然できなかったんですよ。どうしても詰まってしまうんです。それで僕はスピードには向いていないのかなと思った時に、ダニエル選手の映像を見て、この人を参考にすべきだなと思いました」

では、彼のムーブに加えて明智選手なりのアレンジというのは?

「最後のパートは違うし、ホールドを持つ位置もちょっと変わっています。僕はなるべくミスしないムーブを選んでいます」

自分のムーブがだいぶでき上がっているんですね。

「そうですね。あとは勝負ムーブは作っておきたいと思っています」

勝負ムーブというのは?

「スタニスラフ・ココリン選手(ロシア)が言っていたのですが、スピードのトップ選手は自分より速い相手と戦うムーブ、予選を通るためのタイムを出すムーブなど3つくらい持っているそうです。でも僕はまだ1つしかないですね」

昨年、スピードに出場したのは3大会で、そのたびにタイムは縮まっていますが、今年の世界ユース選手権で目標にしているタイムはありますか?

「世界ユースでのタイムというよりも、今年中にまずは6秒台に入ること。目標としては6秒8あたりを目指したいですね。そうすれば今の世界ユースのコンバインド(リード、ボルダリング、スピードの3種目複合競技)では勝てると思います」

今の自己最高は7秒37ですが、あと0.50秒を縮めるためには何が必要だと思いますか?

「スタートダッシュの蹴り方ですね。下のパートの3手くらいで決まってしまうので、そこで少しでも勢いがないと押し上げるのがどんどん辛くなって、後半のパートに響いてしまうんです。フランスの選手はスタートのためだけにハードな筋トレをしてると言ってました。スタート練習用のトレーニングもあるくらいなので、それだけ重要だということですね」

今日はトップレベルの海外選手との対戦でしたが、どのあたりが違いましたか?

「ランキング上位者は圧倒的にミスが少ないですね。ランキング下位の人は自己ベストが速い人でもやっぱりミスが多いんです」

今年は土台作り。世界ユースでは3種目優勝を

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シーズン初めに怪我をしたことで当初の想定とは違うものになったと思いますが、あらためて今シーズンの位置づけを教えてください。

「去年ワールドカップに全戦出て、かなり疲労していました。今年はリードもスピードも出る予定だったので、そうすると疲れてしまうなと思っていました。だから自分に必要なトレーニングをする時間を確保できるという意味では、ちょうどいい機会だったのかなと感じています。ですので、今年は土台作りの年だと位置づけています」

怪我をポジティブに捉えているわけですね。

「だから、あまり落ち込みはしなかったですね」

今シーズンの具体的な目標はありますか?

「世界ユース選手権でボルダリング、リード、コンバインドの3種目で優勝ですね。スピードでも16人のファイナルに行きたいです」

この記事が公開される頃には、ボルダリングユース日本選手権(5月19・20日、鳥取)が行われています。そこへ向けての意気込みは?

「土肥選手や原田選手も出場するので、レベルの高い大会になると思います。今のオリンピック候補選手と戦ってもいい勝負ができるところを見せたいですね。もう怪我の心配はないことをみなさんに披露したいと思います。そんなこと言って予選落ちしたらどうしよう(笑)。でも決勝まで行けると思います」

では最後に、応援してくれているファンの方へ一言お願いします。

「もう怪我の心配はまったくないので、僕のボルダリングやリード、スピードでの独特なムーブを楽しんでもらえればと思います。BJCでの登りを楽しみにしてくれていた方もいたと思うので、そこで見せられなかった分、ボルダリングユース日本選手権でいい登りを見せたいと思います。応援よろしくお願いします!」

<SPEED STARS 2018 女子リザルト>
1位:アレクサンドラ・ルズィンスカ(24/ポーランド)/7秒83
2位:ユリア・カプリナ(24/ロシア)/8秒52
3位:マリーヤ・クラッサヴィナ(27/ロシア)/8秒14
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6位:野中 生萌(20)/10秒02
7位:野口 啓代(28)/12秒97

<SPEED STARS 2018男子リザルト>
1位:スタニスラフ・ココリン(28/ロシア)/5秒94
2位:ウラジスラフ・デューリン(23/ロシア)/6秒01
3位:マルチン・ジェニスキー(25/ポーランド)/不戦勝
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7位:楢﨑 明智(18)/7秒42

※左から氏名、年齢(大会初日時点)、所属国、成績
※1・2位選手の成績は決勝記録、3位選手の成績は3位決定戦記録
※日本人選手の成績は今大会の最高記録

スピードクライミングとは?

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スピードクライミングは、高さ15mの壁に設定されたコースをロープがあらかじめ終了点からかかっている状態で登り、そのスピードを競う競技。使用されるコースはあらかじめ選手に知らされているため、事前に練習をすることができる。スピードの成績は「どれだけ速くゴールまで登ることができるか」で決定する。

※このインタビューは2018年4月29日に収録されました。

インタビュー・文/篠幸彦
写真/森口鉄郎

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