野口 啓代インタビュー

日本の飛躍を牽引し続けるパイオニア

野口選手が考えるスポーツクライミングの魅力とは?

「私の場合はもう生活に欠かせないものになっていて、登っているのが当たり前で。登らない方がソワソワしちゃうというか、不自然なんです。クライミングはすごく複雑な動きをするスポーツで、ホールドの持ち方、足の使い方、体のバランス......などが絡み合うことで様々なトライができますし、さらにボルダー、リード、スピードと競技の種目もあり、まったく飽きがこない。課題を登り切れた時は気持ちいいなって思える。単純に体がほぐれるので、観るのも面白いですけど、ぜひ体験してほしいですね」

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写真/窪田美和子
競技人生で最も印象に残っている大会、シーンを挙げるならば?

「ワールドカップ(以下W杯)だけで100戦以上に出ているので、いろいろあるんですけど......あえて挙げるなら、初めて出場した世界選手権(2005年/リード3位)は忘れられない。スポーツクライミングに本格的に没頭するきっかけになった大会でもありました。案外、周りの選手や会場の雰囲気などは気にならなくて、とにかく自分が思いっきり登れた、いいパフォーマンスができたというのを覚えていて。それが嬉しかったし、この競技をもっと追求していきたいと感じたんです」

いまや日本は、IFSC(国際スポーツクライミング連盟)のW杯ボルダリング国別ランキングで1位を誇るなど、世界的なクライミング強豪国です。その進歩の理由をどうお考えですか?

「今でこそそうですけど、本当に10年前、5年前はまったく違う状況だったので、大きな変化を目の当たりにしていますね。私がW杯に出始めた頃は"準決勝に進んだら凄い"くらいのレベルでしたから。日本人の体、パワーじゃ世界に通用しないと言われていたので、みんながちょっとずつ頑張ることで、ここまで上がって来られたんだなって」

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写真/日本山岳・スポーツクライミング協会
一歩一歩、みんなで強くなってきたと。

「1人決勝に残ったら2人目、3人目が現れて、1人表彰台に登ったら、1人優勝したら、またそれに次々と続いて......やっぱり自信だと思うんです。一緒にジムで練習している仲間が大舞台で勝つ姿を見ていたら"自分もできるんじゃないか"って思えるし、強い選手が身近にいるという環境はすごく重要だと感じていますね」

野口選手ご自身は、2015年にW杯で4度目の年間優勝を果たした後、この2シーズンは4位、3位と王座から遠ざかっています。再び世界一に返り咲くために、どんなことが必要でしょうか?

「世界的にレベルが上がっていて、優勝を争うライバルも前は1人だったのが今は3人、4人といる。その中で勝つには、自分の最強の武器も必要だし、苦手な分野をなくさなければならない。さらにバランスの良いクライマーになるために、トレーニングの量や内容から常に考えています」

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写真/Bram Berkien
2017年シーズンを振り返ると、やはり日本で開催されたW杯の八王子大会が印象的でした。決勝・第3課題(5回のトライ失敗後、残り1秒で完登)、のラストは、野口選手の登りと会場の歓声がシンクロしていたように感じました。

「あの時は、自分が登ることしか考えていませんでした。1秒前というのも気づいていなくて、登り切って歓声でわかったという感じで。本当に自分だけに集中し、いい意味で周りが見えていない状況。ああいうトライが毎回できたら、もっともっと強くなれるんだろうなって思います。日本で行われる大会は格別で、私自身もここでいいパフォーマンスをしたい、日本のみなさんに見てほしいという気持ちが強いんです。もちろんプレッシャーにもなりますけど、応援が大きな力になってプラスに働くことも知っているので」

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写真/日本山岳・スポーツクライミング協会

最強の仲間と、まだまだ進化する

競技生活は15年を超え、ベテランの域に入ってきましたが、ご自身のクライミングはまだ進化を続けていますか?

「以前はトレーニングも自分で考えて登っている感じでしたが、今はトレーナーの先生についてもらっています。そこで自分にはない視点からアドバイスをもらうなどして、これまで発想になかった部分をイメージできるように段々となってきましたね。例えば、ポイントを知らないで"無理なのかな?"と決めつけちゃっていたことも、やり方をしっかり理解してトライして1回できれば、簡単なことなんだな、コツを掴めばいいだけだったんだなってわかったり。そうやって新たに可能になったことも多いので、あらためて人に教わったり、みんなとセッションして学ぶことも大きいなと感じています」

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写真/永峰拓也
近年は若手選手の活躍も目覚ましいですが、そうした新世代の台頭については?

「私自身、年齢とか経験値とかはあまり意識していないんです。クライミングって力や強さだけでは勝てないし、一方で経験値があるからって勝てるわけでもない。そういうものすべてのバランスだったり、大会の一瞬の局面でいかに最高のパフォーマンスを発揮できるかが重要だと思っているので」

TEAM auについてもお聞きしますが、今年からメンバーが6人に増えましたね。

「今までの4人もそうでしたけど、新しく加わった2人も今、日本で一番活躍していると言われるようなクライマーであって、本当にトップの選手しかいないチームですよね。みんながみんなそれにプレッシャーも感じているでしょうし、このメンバーの中だったら自分も頑張んなきゃいけないなと考えているはずです。全員個性があって性格も考え方も登り方も全然違うので、バランスがいいというか、かなりの最強メンバーだと思いますよ」

最近はTV出演をはじめ、メディアでの活躍も増えています。ご自身やスポーツクライミングがこうして注目されている状況をどう感じていますか?

「すごく嬉しいです。自分がやっているスポーツに自信が持てますよね。まだまだ可能性を感じるし、どんどん良い方向に進んでいるのがわかるので、どこまで大きくなるのかなって」

フォロワー数5万人を誇るクライミング界のインスタクイーンでもある野口選手ですが、「いいね!」が増えるクライミング写真のコツを教えてもらえませんか?

「そんなことない! そんなに投稿もしてないんですけど......(笑)。でも、素直にポストしたいなとは思っていて、自分はこういうキャラだからとか、こう見てほしいとかは考えず、素で書くようにしています......って、かなり普通のこと言っていますね(笑)。ただ、たくさんの方に見てもらえるのは嬉しいですし、もっと頑張んなきゃなって」

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写真/野口啓代 Instagram

今シーズンの目標を教えてください。

「2018年は世界選手権が9月にあるので、そこで3種目に出て、1つでもいい色のメダルを獲りたいです。また、今年も八王子でW杯が開催されますね。昨年は『良かった』『感動した』って声をかけていただいて、なかなかそれを上回るのは難しいと思うんですけど、最高のクライミングが見せられるように頑張りたいです」

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写真/永峰拓也
最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。

「長く競技を続けていると、もちろん良いことばかりでなく、悔しかったことやショックだったことも心に残っていて、つまずきそうになったり、解放されたいって思うこともあるんです。あぁー、明日もあさってもトレーニングかぁー、みたいな(笑)。でも『応援してます』とか『頑張ってください』と言っていただけたり、一つ一つの応援が心にジーンと響いて、すごく励みになっています。いつも応援、本当にありがとうごいます!」

※このインタビューは2018年1月11日に収録されました。

2018年1月31日
撮影協力/NOBOROCK渋谷店

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