藤井 快インタビュー

虎視眈々と高みを目指す求道者

2017年はボルダリングジャパンカップ(BJC)で史上初の2連覇を達成しました。2月初旬に開催される2018年大会に向けて、意気込みを聞かせてください。

「日本人選手のレベルは総じて高いので、優勝するのは非常に難しいことです。ワールドカップとも違う難しさがある。前回大会は課題のタイプが自分に合っていたこともありますが、誰も登れないような課題を攻略できたというのは自信になりました。僕の中でも、一つの限界を突破できたなって。優勝することでその後のシーズンも頑張れる。今大会も目標は一択、3連覇です」

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写真/窪田美和子
国内だけではなく、今や世界のトップを競い合うライバルが身近にいる環境については、どう感じていますか?

「焦りとか、負けたくないという気持ちとか、いろんな思いがあります。自分にプレッシャーを与える存在なので。でも、そういう強い仲間たちがいるからこそ、自分も頑張ろうと思える。すごく刺激的な環境がありますね」

日本代表やTEAM auでもチームメイトである楢﨑兄弟は、どんな存在?

「ただただ、脅威ですね(笑)。2人とも才能にあふれています。僕はそんなに才能がないので、いいなって」

では、ご自身のクライミングの特徴というと?

「周りの人から言われるのは、安定感があるとか静かな登りだとか。僕自身は、自分には特色というものがなく平均的なクライマーだと思っています。ただ、目標としているところもそこ。僕が理想とするクライミングは、すべての課題に対して良い登りができること。言ってしまえば『色』がないような、淡々と登るようなクライミングがカッコいいなと感じていて。一つの要素を伸ばすというよりも、全部を同じくらいに伸ばしていきたいですね」

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写真/藤枝隆介
以前には「自分はクライミングのセンスがない」という発言もされていました。仮にそれが本当だったとして、藤井選手が世界のトップレベルで戦えている理由は何なのでしょうか?

「諦めないことだったり、努力を続けてきたことでしょうか。本当に僕は、もともとセンスがあって成功してきたというタイプではないんです。『強いね』って言われたとしても、『この中だったら』ってくらいの(笑)。でも、その中で細かいところを突き詰め、"ここを良くしたい"という点を一つ一つ潰してくようなイメージで、自分の登りを高めてきた。強みよりも苦手なものの方が多くて、それを克服することで前に進んできた。頑張ればできる道というか、そうした歩みが僕の性格にも合っていたんです」

クライミングは身体能力やテクニックはもちろん、メンタルも大切だと言われています。藤井選手にはそうした内面の強さが感じられますが。

「いや、ただの負けず嫌いだと思います。僕もメンタル、弱いんですよ(笑)。試合中も"あの人は登れた。自分はどうかな?"みたいに周りの選手に影響されたり。もちろん、登っている時は登ることしか頭にありません。今では結果に一喜一憂することなく、自分にフォーカスできるようになりましたが、メンタルの鍛錬について考えることも多いですね。これも一つ一つ、です」

探求し続けたら、永遠にできる

競技人生で最も印象に残っている大会、シーンは?

「一番のターニングポイントになったという意味では、初めて優勝したワールドカップのインド大会(2016年5月)。あの時は、本当に自分がクライミングに没頭していた。決勝の舞台はとにかく楽しかった。"早く登りたい"っていう欲求、単純にそういう感情があふれていたので、今思い出しても、あんなクライミングがしたいなって」

ワールドカップでは世界各国を転戦しますが、開催地によって大会の盛り上がり方も違いますか? また、藤井選手が特に好きな国は?

「印象的なのはフランスのシャモニーですね。リードのワールドカップ開催地としてすごく歴史があり、観客の盛り上がりも違います。有力なクライマーがこぞって参加するので選手にも華がある。町自体が"山の街"で、街なかで道具を見たりするのも楽しいし、食べ物も美味しいし、好きですね」

具体的に会場の雰囲気はどう違うのでしょう?

「じわりじわりと壁を登るリードの大会って、人によっては観ていて少し飽きてくる部分もあると思うんですが、選手が頑張っていると物凄い声援を送ってくれるんですよ。それも、どの国の選手に対しても平等で。だから、登っていて"優勝したんじゃない!?"って思っちゃうほどで、実際は全然ダメだったということもありました。"これ絶対、暫定1位きたっしょ"って落ちたら、あれって(笑)。ギリギリのところで踏ん張っている姿を後押ししてくれて、優勝したと錯覚させられるくらいの盛り上がり方をするので、気持ちいいですね」

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写真/永峰拓也
あらためて、藤井選手が考えるスポーツクライミングの魅力とは?

「シンプルなスポーツに見えるかもしれませんが、実はジャンルがいっぱいあって飽きることはありません。探求し続けたら、永遠にできる。それは年齢も関係なくて、自分のやりたいことに素直になれるというか。一人一人が自分なりの目標を持って挑戦できるところが魅力だと思います。実際にやると奥が深いので、未経験の方もぜひチャレンジしてみてほしいです」

最近はスポーツクライミングに打ち込むキッズも増えていますよね。なぜ子供たちに人気があると思いますか?

「かなり本能的なスポーツというのか、僕も小さい頃は自然と木登りをしていましたけど、登るという行為がただただ楽しいんじゃないかな。僕自身は、できないのが楽しかった。できなくて、悔しくて頑張って、できるようになる。その時が嬉しかったですね」

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写真/永峰拓也
藤井選手は"会社員クライマー"と紹介されることもあるように、ジムスタッフとして勤務もされています。競技者としてプラスになる面はありますか?

「僕はアスリートといえども、社会に関わっていくことを経験として持っていた方がいいと考えていたんです。人としてひと回り大きくなるために学んでおきたいと。クライミングに生かせることもたくさんあります。仕事の中で同僚と連携したりリーダーシップを発揮したりするシーンなども、自分にとっては貴重な学びになっています」

TEAM auでは唯一の妻帯者ですね。結婚生活はいかがですか?

「一番大きいのは、ごはんを一緒に食べられるとか、ストレスフルな場面も多い中でリフレッシュさせてくれるとか、精神的な安心感ですね。肉体的にも、妻は鍼灸師の資格を持っているので体をケアしてくれたり、ありがたいです」

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写真/藤井 快 Instagram
今シーズンの目標を教えてください。

「2017年はくすぶっていたので、今年は勝ちたい。昨年はベストがBJCや優勝したワールドカップ初戦のマイリンゲン(スイス)で、最初が良すぎたというのもあり、以降はもう少しやれたんじゃないかという大会も多かった。決勝で燃え尽きることができなかった。そういうことがないようにしっかり準備していきたいです。自分自身に勝つ。そして自分が思っているよりも上へ。今年は勝つ!登る!」

具体的にコンペにおける目標地点はありますか?

「特に世界選手権では決勝に行ったことがないので、まずリードとボルダーで決勝に進出すること。そこから表彰台を目指します」

最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。

「見ている人に勇気を与えられる、クライミングってこんなに楽しいんだ、やりたいなと感じてもらえるような選手に成長していきたいと思っています。これからも応援よろしくお願いします」

※このインタビューは2018年1月11日に収録されました。

2018年1月31日
撮影協力/NOBOROCK渋谷店

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